『源氏物語』において、葵の上を殺してしまう六条御息所の生霊のような存在も、討債鬼と呼ぶのでしょうか。

討債鬼、索債鬼の「債」とは、説話を読めば明らかなように〈負債〉のことです。よって厳密には、前世の負債を決済しなかった借り手に対し、貸し主が〈不具〉の子供になって生まれ、前世で取り立てられなかった分を今生で奪い取ろうとする存在をいいます。前世の恨みを今生で報復しようとする転生復讐譚の、類型のひとつといえるでしょう。よって授業で紹介した事例のうち、精確に「討債鬼」「索債鬼」といいうるのは、『日本霊異記』の事例のみとなります。『集異記』の「阿足師」も、不正確な点はありますが、索債鬼の範疇で理解しても問題ないでしょう。六条御息所の事例は、まず輪廻転生が介在していませんし、ちょっとした諍いと嫉妬が原因で経済的負債ではないので、「討債鬼」「索債鬼」とはいいえないかと思います。