先生の慰安婦問題に対する解説はミスリードではありませんか。政府は慰安婦の存在を認めていないと仰いましたが、政府は過去の韓国慰安婦からの請求に対し10億円もの賠償を行っており、存在を認めている証拠です。これを韓国政府は慰安婦に提供せず、国同士で交わした協定に違反する請求をし、和解・癒やし財団を一方的に解体しました。この問題は、日韓請求権協定で交わされたように、もはや日本の問題ではありません。人権重視も大事ですが、それを行使され続けたら、過去の清算などできません。

先週はパワーポイントのみの説明で、プリントを配付しませんでしたので、ぼくの説明がしっかりと伝わらなかったのかもしれません。関連のスライドは、下記に掲げておきましたので、参照してください。そのうえでですが、ぼくは日本政府が慰安婦の存在を否定している、という単純な説明の仕方はしていません。スライド4で言及しているとおり、1992年の宮澤喜一首相による謝罪、1993年の河野洋平談話において、日本政府は「慰安婦に軍による強制があった」ことを認めています。これが、日本政府の正式な立場です。しかし、安倍政権は、ことあるごとにこの立場を否定し、改変しようとしてきました。第1次安倍政権の2007年には、軍や官憲による強制連行を示す文書はみつかっていない、との閣議決定をしています。この姿勢はその後も変わらず、2012年11月の衆議院議員選挙を控えた党首討論会では、河野談話の見直しを明言しています。また、第2次安倍政権に至っても、2013年2月の衆議院予算委員会において、前原誠司議員の質問に対し同様の答弁をしています。2014年、『朝日新聞』の吉田証言誤報問題がセンセーショナルに採り上げられると、この姿勢は急進化し、同年10月の衆院予算委員会では、「日本のイメージは大きく傷ついた。日本が国ぐるみで性奴隷にしたと、いわれなき中傷が世界で行われている」と、慰安婦の軍・官憲による強制を完全否定する発言を述べています。より厳密にいえば、安倍政権は公娼としての慰安婦の存在は認めていますが、それはあくまで主体的に従軍した存在であって、軍や官憲が強制的に女性を慰安婦にしたとの問題は否定している、ということです(繰り返しますが、河野洋平談話に際して日本政府は関連史料を収集、そのなかに軍や国家の関与したことを示す文書は含まれています)。この動きは急速に広がり、2015年には維新の会系議員、および幹事長を務めた松井大阪府知事が、「朝日の誤報により慰安婦の強制連行の証拠はなくなった」として、教科書の見直しを進めるコメントを発表するなどしています。
慰安婦問題をめぐる日韓合意が急速に浮上したのは、その同じ2015年です。当時の岸田外相は、ソウルにおける共同記者発表において、次のような合意内容を明らかにし、ここにおいて慰安婦問題は「最終的不可逆的な解決」に至ったと述べました。

a)慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。
b)日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
c)日本政府は上記を表明するとともに、上記b)の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。 あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

上記の内容は、一見、日本政府が慰安婦問題の責任を全面的に認め、謝罪したかにみえます。この流れが明らかに急だったので、当初、慰安婦否定派の人々からも戸惑いや批判の声が聞かれたほどです。しかし日本政府は、翌2016年1月、国連女性差別撤廃委員会へ、やはり軍の関与を否定する答弁書を提出しており、安倍政権の基本姿勢がまったく変わっていなかったことが国際的に示されます。またこのように、人権問題を外交問題として決着させようとする姿勢については、早くから、韓国・日本両国内で、被害者の意向を蔑ろにするものであるとの批判が相次いでいました。日本が拠出した10億円で始まった和解・癒やし財団の資金拠出も、8割方の被害者は資金を受け取ったものの、それが「賠償金ではない」ことなどを理由に、拒否する人々もありました。憲法違反であるとする裁判も起こされています。日本においても、まず政府が慰安婦制度の責任の所在を明らかにしていないこと、未だ解明されていないことの多い問題に「不可逆的解決」はありえないなどとして、歴史学主要学会15団体などが反対声明を出しています。国際社会からもこの点は批判を集め、2017年には国連拷問禁止委員会が、両国の合意を尊重しつつも、被害者への補償や名誉回復の措置が不充分であるとして再交渉を促しています。
なお、日本政府の立場は、「1965年の日韓請求権協定で解決済みである」とのことですが、この外交交渉では慰安婦の問題は考慮されていなかったため、韓国は異なる考え方に立っています。韓国側の理解は、日本政府が慰安婦の軍・官憲関与を認めたのが1992年であったことからしても、「新たに発覚した人権問題」であり妥当な解釈といえるでしょう。なお韓国政府は、1993年以降、慰安婦被害者生活支援のための独自の法整備を行い、日本政府の償い金(やはり国家の責任を認めた賠償金ではない)を拒否した人々への同額の資金供与や、女性家族省による精神的ケア、医療支援、高齢化支援などを行っています。

f:id:hojo_lec:20200116114854j:plain

慰安婦問題1

f:id:hojo_lec:20200115013056j:plain

慰安婦問題2

f:id:hojo_lec:20200115013114j:plain

慰安婦問題3

f:id:hojo_lec:20200115013136j:plain

慰安婦問題4