犬を買う習慣がまったくなかった頃も、人間は犬と狼を区別していたのでしょうか。

基本的に、イエイヌは狼の一部が家畜化され、別の進化過程を辿ったものとみられていますので、犬を飼う習慣の成立以前は、犬を区別することさえできなかった、という不思議な解答に至ることになります。前にも少し触れましたが、イエイヌの多くは狩猟犬として、または番犬として、人間との共存を始めたようです。そうしたパートナーシップを築いた方が、生存確立が高いと判断した結果でしょう。確認された日本最古の犬は、愛媛県上黒岩岩陰遺跡で出土した縄文早期(約8500年前)のものです。縄文後期になると、犬は人間の傍らに葬られるようになり、また遺体には老犬が多く骨に怪我の跡も確認されることから、狩猟犬として熊や猪と戦い、老死するまで大事に扱われたものと推測されています。ただし、歴史時代に入ってくると、民俗的知識におけるオオカミとイヌとの混同が起こってきます。生物学的にはオオカミであろう個体に対し、ヤマイヌなどの名称が用いられるのです。しかも近世には、博物学的に両者の相違が説明されたりします。実際に捕獲しつぶさに観察してみなければ、オオカミとイヌの区別はつかない場合もあり、イヌとみなされたオオカミ、オオカミとみなされたイヌも多かったものと考えられます。