全学共通日本史(19秋)
先週はパワーポイントのみの説明で、プリントを配付しませんでしたので、ぼくの説明がしっかりと伝わらなかったのかもしれません。関連のスライドは、下記に掲げておきましたので、参照してください。そのうえでですが、ぼくは日本政府が慰安婦の存在を否定…
Olympic Flameの起源は、ギリシャ神話にみるプロメテウスの炎という。人間を憐れんだプロメテウスは、鍛冶神ヘパイストスの炉から火を移し取り、ゼウスの戒めを破って地上にもたらすが、それを受け取った人間は文明を発展させつつ、武器を造って戦争を激化さ…
「諸国山川掟」については、果たして全国的な開発抑制策であったのか、淀川水系の治水目的に限定されるものではないか、との指摘がなされています。しかし、明らかにこれを受け継ぐ(授業でも触れた)貞享の禁令や、伐採禁令・土砂流出抑止策が諸藩から打ち…
熊野に限らず、寺院や神社の境内あるいは所領は、神仏を荘厳する道具立てとして、寺社が自らの用途に用いる以外、許可なく伐採することは禁じられていました。それらは神霊の宿るところである、無理に伐採すれば神仏の罰が降る、といった説明もなされてきた…
ひとつには、教科書編集における保守性が原因でしょう。環境史という領域が、学界において一定の地位を得たのはそう古いことではなく、またその視点を援用すると、政治史や国家史の知見、社会史や思想史の知見にさまざまな変更を迫る事態が生じます。授業で…
すべてがそうだ、とはいえませんが、ナショナリズム的側面を持ちうることは確かです。1990年代の後半に、オーストラリア大学の日本史研究者テッサ・モーリス=スズキが、〈エコ・ナショナリズム〉という言葉で、現代日本の自然観の一端を表現しました。彼女…
この問題は、単に政治や社会、経済の問題としてのみ捉えるのではなく、ヒト以外の生命をどのように考えるのか、われわれは彼らとどのような関係を取り結んでゆくべきなのかという、倫理の問題でもあります。ぼくは仏教者でもありますので、あらゆる生命に優…
概ね、個人所有ではなく入会地(共同体所有)です。共同体所有の土地と環境問題について考えた有名な概念に、ギャレット・ハーディンの〈コモンズ(共有地)の悲劇〉があります。どういう考え方かというと、例えば、複数の共同体成員が牛を放牧している牧草…
ひとつ重要な著作として、 アルフレッド・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ—忘れられたパンデミック—』(西村秀一訳、みすず書房、2004年〈原著1989〉)があります。いわゆるスペイン風邪(スパニッシュ・インフルエンザ)の大流行をアメリカからの視点…
はい、もう何度かお話ししたことがあるような気がしますので、こちらとこちらに関係の回答を掲示しておきますから、まずは該当ページをご参照ください。基本的には、国家のような統合的政体ではなく、集団の規模を第一次産業の地産地消が可能な範囲に縮小し…
もちろん、天皇の存在が日本律令国家には不可欠ですので、そもそも厩戸王という「王族」が聖人のモデルに選択されたのは、天皇を中心とする中央集権体制が構想されたことと関係します。しかし、実在の厩戸王が、蘇我氏と連携しながら仏教興隆に貢献したこと…
とても重要な質問だと思います。歴史叙述の根幹に関わるような問題ですね。実は、東アジアにおける歴史叙述は、その根幹に、卜占的な未来予測の要素を含んでいます。それはすなわち、中国古代、殷王朝に開始される甲骨卜辞です。もともとは狩猟採集段階にお…
授業でもお話ししましたが、『日本書紀』は、大化改新以降に構築されてゆく、大王家中心の古代国家の価値観で書かれています。大化改新の始まりを告げる乙巳の変のクーデターでは、蘇我本宗家の蝦夷・入鹿父子が、大王家の中大兄皇子・中臣鎌足によって滅ぼ…
重要な指摘ですね。これには少し説明が必要かもしれません。まず、確かに〈和〉と〈武〉は対義語の関係にはありません。東アジアの歴史的文脈においては、〈武〉の対義語は〈文〉です。と同時に、常に、〈武〉よりも〈文〉のほうが価値の高いものと考えられ…
いま問題としている7世紀までの段階では、まずは鉄資源を得るためという大きな目的がありました。古墳時代の倭国では、当時鉄素材を自ら生産することはできず、朝鮮半島の南部から交易を通じて獲得していたのです。よって、それらを調達できる豪族たちが権…
倭の五王による南朝劉宋への朝貢の時代から、倭の外交に渡来系の人びとが関与していたことは、文献によって明らかになっています。当時、朝鮮三国も頻りに劉宋へ使者を派遣し、将軍職を得て南朝の臨時政府としての位置づけを得ようと、外交合戦を繰り広げて…
紀伝体は、中国正史に基づく叙述形式ですね。「紀」が歴代の王・皇帝の生涯を時間軸に、治世の出来事を年代順に記してゆくもの、「伝」が王朝に貢献した士大夫たちの伝記です。「問題史」は、あるテーマを設定しそこから歴史を捉えてゆく叙述形式で、通史と…
象徴権力の発現の仕方は、ご指摘のように多様性があり、どんな場合にも同じ状態で作用するというわけではありません。確かに、相手が恩義を感じないことで、発動しない場合もありうるでしょう。しかし、こうした行為が社会のなかでなされることを考えると、…
映画は総合芸術ですので、その製作にはたくさんの専門家が関与します。作家、脚本家、音楽家、美術家、カメラマン、演出家、そして俳優たち。製作会社や配給会社、その映画が売れる、あるいは価値があると判断して資金や資材、あるいは人材を出すスポンサー…
国会議事堂は、あくまで戦争を遂行した政府の象徴であって、天皇を象徴していたわけではありません。日本国民の多くは政府に対して憎悪を抱いていても、天皇に対しては別の見方をしていたと思います。それは、戦後昭和天皇が列島各地を旅して回った際、人び…
必ずしもそうではありません。史料の読解を通じてある歴史像を組み上げようとするとき、あなたならどうするでしょうか。いくらたくさんの史料を読んだとしても、そこから社会の仕組み、その時代ごとの相違などを、復元することができますか? たいていの人に…
いえいえ、日本会議や神道政治連盟については、批判的に扱った書物もありますし、新聞記事やtwitterの書き込みも少なくありません。テレビでもときどき言及されていますが、テレビはとくに「本質的な政権批判がほぼできない」状態なので、一般に共有されにく…
「マルクス本人とは友だちになりたくない」「マルクス自身が国家を樹立したら、専制的になる」とお話ししましたが、実はマルクスは、共産主義国家を実現するためには、暴力革命とプロレタリアート独裁(しかも中央集権)が必要であると考えていました。それ…
うーん、大きな誤解です。その集団は、単なるヘイト・スピーチの集団か、大日本帝国へ回帰しようとする極右の政治集団でしょう。マルクスは、プロレタリアート独裁による共産主義的政治体制を志向していましたので、天皇制は早急に打倒すべき古代的、もしく…
「下部構造が上部構造を規定する」というテーゼは、例えば社会や文化のありようを価値判断して、政治と経済とどちらが重要なのかと考えることではありません。例えば、文章経国思想の支配により民衆の歴史が紡がれたとして、そうした立場を支配層、貴族、官…
うーん、難しいですね、これも大きな誤解です。お話しした唯物史観は、現在から過去の流れを捉え、古代以降の政治・社会・経済の変転を説明するための考え方なので、唯物史観が古代を破壊したわけではありません。確かに、政治制度が大きく変わったとき、新…
うん、これは鋭い質問です。われわれが下部構造について語ることができるのは、マルクス主義的にいえば、イデオロギー批判を通じて社会の実相を捉えることができているためです。社会構造・経済構造、あるいは人間の認識の構造そのものによって、人間が考え…
要するに、マルクス主義の理論、法則を重視する枠組みに批判が高まり、普遍的な抽象的な法則性よりも個別具体的なものごとの解明、すなわち実証が再評価されるに至った、ということです。個々の地域の特性を解明するためには、実証的な成果を積み重ねてゆく…
詳しくは次回お話ししますが、マルクス主義歴史学(唯物史観)の重要な点は、社会・経済が別の形式へ展開してゆく仕組みを、厖大な歴史資料から明らかにし理論にまで高めた点です。マルクスはまず、歴史を人間の自由な意志や観念の展開のうえに位置づけてき…
歴史学の観点からいいますと、それまでの皇国史観が天皇中心の歴史観、すなわち支配者の視点による歴史観であったのに対し、マルクス主義歴史観は一般の人々の視点から歴史を考えようとしました。国家によって編纂された、あるいは支配者層によって記録され…