2007-10-01から1ヶ月間の記事一覧

Sさん・Uさんの報告についての講評

割り当てが急で間に合わなかったのでしょう、今日はとにかく準備不足でした。実力自体は充分なのですから、ちゃんと期日に間に合うよう頑張ってください。そのうえで、古代史ゼミの人間にはいわずもがなのことですが、他のゼミの人のために書いておきます。…

考課の制度についてですが、そもそも勤務評定はなぜ六年に一度だったのでしょう。六という数に何か意味があったのですか。

〈六〉という年数が、律令国家の基本サイクルのひとつであることは確かです。戸籍も六年に一度作られますし、班田も六年ごとに行われる規定でした。それでは六に特別な意味付けがあったのかというと、これはよく分かりません。ただ、天・地・東・西・南・北…

日本にも闕字の習慣はありますか。

古代日本の文書様式は唐令を継承しているので、闕字もちゃんと公式令(38闕字条)に規定されていました。それによると闕字の対象は、大社(ここでは伊勢神宮か)・陵号(歴代天皇の陵墓)・乗輿・車駕(ともに天皇の乗り物)・詔書・勅旨・明詔(詔旨の美称…

避諱の制度ですが、名乗るのを忌む、というのはいつからある習慣なのでしょう。/そもそもなぜ名乗るのを忌むのでしょう。逆に使用することで尊崇の念が増す、という考え方はなかったのでしょうか。

起源はいつなのか、というのは勉強不足で分かりませんが、諱とは正確には本名のことで、中国では目下の者が目上の者の本名を呼ぶのは礼に悖る行為とされていました。そもそも名とは個を特定するものなので、呪術などに用いられれば大変危険であり、無闇に明…

中国の避諱は、違う漢字であれば使用を許可されたと思います。日本では、なぜ「不比等」に対し「史」まで禁止されたのですか。

これは、中国では漢字という文字とその意味とが一定に結びついていますが、日本では漢字とやまと言葉との間に明らかな断絶があるためでしょう。つまり、日本では「ふひと」というやまと言葉のレベルで避諱が成り立っているわけですが、それは訓を用いて「史…

避諱を決定する権限は天皇のみにあるのでしょうか。天皇の判断なのか、対象となる人物の頼みによるものなのでしょうか。/臣籍降下は誰が決めるのですか。

避諱にしても臣籍降下にしても政策ですから、天皇を含めた朝廷の総意として決定されたことに違いはありません。その細かい策定には関係機関の官僚たちも動いていたはずです。最終的な決定に誰の意向がより強く働いたかは、時代によって違うと思いますが(天…

天武以降の直系継承に不比等の強い意向が働いたとのことですが、天皇の意思は尊重されなかったのでしょうか。

そんなことはなかったと思います。皇位の継承系統を確立して政治的混乱を防ぎたいと考えていたのは、まずは壬申の乱を引き起こさざるをえなかった天武であり、その意向を受け継いだ持統であり、また支配者層の総意でもあったでしょう。継承者を天武・持統の…

藤原氏は天皇にとって代わりたいと思ったことはなかったのでしょうか。なかったとすれば、それはなぜでしょう。

藤原氏には、天皇家にとって代わるという発想はなかったようですね。なぜかといわれると困りますが、律令国家の日本的特徴として〈天皇制〉なるものを選択し、自らそれを順守し利益を得る方法を良としたのでしょう。天皇制とは、究極的にいうと、(まっとう…

サンとはどういう存在なのでしょう。彼女は自然の代弁者ではないと思うのですが……/サンは完全に二者択一の一方、自然的価値観(神々との一体化)を選んでいるといえるのでしょうか。

(書きかけ)

猪神の長老乙事主は、海を渡ってきたように描かれていたかと思います。昔の日本には、外来の神々をも受け入れる素地があったのでしょうか。

それは明らかに存在しました。いわゆる神道的な神のなかにも、古代に大陸や半島から渡ってきて日本で祀られるようになった神がたくさんいます。神仏習合が前提となっている中世・近世世界では、その傾向はさらに顕著で、西域やインドを出自とする神様も多く…

生命を循環させるシシ神自身の生命はどのように捉えたらいいのでしょう。/「シシ神は死なないよ、命そのものだから」というラストのアシタカのセリフは、講義の趣旨からするとどのように捉えられるでしょう。

宮崎駿の設定では、シシ神は下級の神格であるということです。そのためか、植物や動物の生命を循環させる役割は担っていても、気象を操るとか、自然界全体を象徴する存在としては造形されていません。例えば日本の縄文時代には、人々は自然を死/再生の循環…

祟り神になるのは猪神だけなのだろうか。また、なぜあれほど人間に憎悪をたぎらせていた普通の猪たちは、祟り神にならなかったのだろうか。

論理的には、猪神だけでなく、同じ階層に属する犬神や猩々たち、そして人間も祟り神化しうるはずです。物語のなかで猪神が多く祟り神化するのは、〈猪突猛進〉という言葉どおり、彼らが直情径行の生き物として設定されているからでしょう。つまり、憤怒や憎…

『もののけ姫』のラストシーンをハッピーエンドと捉えてしまうのは、アニミズム的心性に規制されているからだというお話でしたが、それでは海外ではどのような評価があったのでしょうか。

ご存知のように、『もののけ姫』はディズニーの配給によって海外でも公開されました。残念ながら、その詳細な情況はちゃんと把握していないのですが、自然と人間との戦いの構図は、ヨーロッパなどでの方がすんなりと受け入れられたと語るインタビューを観た…

Hさんの報告についての講評

とにかくよく調べてありましたね。写本もしっかり読めていましたし、演習の報告としては申し分のないできでしょう。私の範囲設定がちょっと長かったので、1時間以内に収めるのは難しかったと思いますが、よくまとめてくれました。私が前回までの説明で省い…

中衛府について詳しく知りたいのですが、参考になる文献はありますか。

笹山晴生『古代国家と軍隊』(中公新書、のち講談社学術文庫)、同「中衛府の研究」(同『日本古代衛府制度の研究』東京大学出版会)が基本文献です。

律令厳密主義と律令現実主義との対立から長屋王の変が起こったとのことですが、武智麻呂は具体的にどのような点で律令を変える必要を感じていたのでしょう。

武智麻呂は、近江国守として地方政治を経験し、民衆が現実にどのような行動をとるか具に観察してきました。例えば、このとき上奏して認められた寺院合併令では、国家の財政支援を受けた豪族たちがその利益を目的に造寺に明け暮れ、結果実態を伴わない寺院が…

律令厳密主義の欠点とは、具体的に何だったのでしょう。

例えば、長屋王の立案したという百万町歩の開墾計画に、その限界が表れていると考えられます。当時、平城京建設の負担もあり、重い課役に耐えかねた農民たちの浮浪、逃亡が社会問題化していました。一方で農業生産の技術は向上しており、人口は増えてきてい…