日本史特講:古代史(14春)
神農の方は、いわゆる天恵と位置づけられる考え方ですね。あるいは穂落神のように、あらゆるものの価値の源泉が天にある、ということを表明する言説です。一方の『淮南子』本経訓の内容は簡略で、高誘注によらなければ解釈の難しいところがあるのですが、文…
実はやはり、噴火によって都邑が潰滅するという伝承はあまりみられないのです。地震については、授業で扱った『今昔物語集』の記述も地震の色彩が濃いですし、別府の瓜生島や徳島の御瓶千軒なども地震による水没で、多少は確認することができます。しかし、…
授業で一言だけ触れましたが、仏像霊験譚の形式ですね。中国の南北朝期には、仏像が発汗して凶事を知らせる類の言説が多く作られましたが、これが後に涙や血へ姿を変えてゆくようです。善導『往生礼讃』に書かれる三品懺悔の手法には、目から涙を流して行う…
そこに主題がないからだ、としかいえません。また中国では、少なくとも儒教の建前的な立場では、非業の死を遂げた人間への祭祀は行わないことになっているのです。こうしたことが宗教の抱える喫緊の課題となってゆくのは南北朝のことで、主に仏教が担い手と…
確かに関連はあるのかもしれませんが、「天地始之事」に出てくる兄弟には対立関係はなく、いわゆる愚兄賢弟の枠組みに当てはまりません。また、エサウは野人のような存在ですから、「天地始之事」に登場する兄とはかなり印象が違います。全体としてはノアの…
これは少し、現代語訳が不正確でした。「べんぼう」は恐らくLimbo、すなわち辺獄のことを指すと思われます。洗礼を受けなかったものが原罪のうちに堕ち、しかし永遠の地獄であるInfernoとは区別されるものです。この考え方によれば、キリスト教的な回心を得…
確かに、その点は充分考慮しなくてはなりません。実は、この講義のもとになった論文では、『今昔』の都邑水没譚を、遼代説話世界の影響を受けたものかもしれないと展望していました。近年は、院政期の説話世界が、遼・非濁の『三宝感応要略録』などに大きな…
確かに、それはありえますね。下の方でも書きましたが、石像の顔が赤くなるという系統の話は、仏像霊験譚の影響を受けています。亀や獅子には、顔全体が赤くなる事例はなく、神像や仏像の類になって、このような表象が出てくるわけですね。このジャンルにお…
あります。例えば、やはり河南省の西華県で採録された伏羲・女媧の伝承として、これお姉・弟と語っている事例があります。「人祖爺(伏羲)と人祖婆(女媧)は夫婦ではなく、実は姉弟である。姉弟が石亀に昼ご飯の餅を与えると、石亀は、「私の目が赤くなっ…
冒頭の単元で、「サバイバーズ・ギルト」のお話をしたと思います。これは事故や災害の際、自分の大切な存在を失ったひと、肉親を失った人たちにみられる心理状態です。自分ではなく、なぜ他の人が死んでしまったのか。とくに、子供や妹、弟、恋人など、自分…
一応は実在します。下記の記事などを参考にしてみてください。近年、テレビの特番などが組まれ、多少の発掘も行われたようです。 http://www.pusannavi.com/miru/1089/
蠱毒の実際については、詳細はよく分かりません。しかし、最後の1匹になるまで殺し合いをさせる、失敗してみんな死んでしまった場合は最初からやり直す、ということでしょうね。非漢人文化が漢人世界に採り入れられた例としては、例えば川本芳昭さんが、「…
まったく交流が存在しないところであれば、流通・伝播による物語の共通性は表れないでしょう。ただしその場合も、ユング的なアーキタイプ、あるいは同一環境による類似思考の表現として、酷似した神話・伝承を見出すことはできそうです。
振り返った嫁が子供と一緒に石化するのは、嬰児と母親を一体的なものとみるアジア的思考によるものでしょう。母親がタブーを破った罰として嬰児が殺される、という事例もありますが、これも母親に苦痛を味わわせるためと考えれば、やはり同じ一体性のなかで…
物語に登場する動物がどのような役割を果たすか、あるいはどのようなイメージを持つかは、概ねそれぞれの地域の文化的特性に応じて決まってきます。例えば、野生と文化の境界にあって、常に人間の世界へ侵入してくるキツネは、人間を騙すずる賢い動物として…
樹木婚姻譚、人間が樹木から生まれる話は、中国にも見出すことができます。しかし漢民族においては、自然を支配し超克しようとする発想のなかで、早い時代に衰退していってしまうようです。神聖視される樹木は、その果実が有用な果樹などに限らず、むしろ枝…
煙の象徴性は、多くの場合、人と天とを繋ぐ点に重要性があります。しかし、「気」の視覚化されたものとしてより多様な意味も持ちえたので、兄妹婚姻型神話においては、二人の気が合致するという、即物的な性交渉の象徴として以上に、より抽象的な心身の合一…
臼自体には永久性を象徴する要素はないと思いますが、問題はそれが「石」製であることです。石や金属は、古来、人間を超越する時間に存在するものとみられてきました。ゆえに墓を石で築いて碑を造り、神像や仏像も石を使って制作したのです。海のなかの臼も…
面白い連想ですが、一般化できるかどうかは難しいでしょう。クロは「黒不浄」という言葉があるように、死や穢れを象徴する色彩です。罪は古来穢れと結びつけられてきましたので、穢れがある/ないとの基準から、クロ/シロの隠語が生じたと考えられます。た…
狩猟採集社会は遊動生活が行われていましたが、15人程度の小集団で生活するのが、食料経済的にも最も効率的であったと考えられています。しかし、そうした規模の集団内で婚姻を繰り返しますと縮小再生産にしかならず、いずれ集団は滅びてしまう。そこで女性…
そうですね。様相はかなり複雑だろうと思います。江南地域に、世界の始まりを洪水状態と考える神話が存在したことは、戦国時代の木簡から分かっていますが、そこには伏羲・女禍は存在しません。一方、中原地域の伏羲・女禍による創世神話は、もともと洪水を…
書承と口承ですが、後者にはさまざまなパターンがあります。社会情況に支えられた噂のように広汎に伝播するもの、ひとつの共同体のなかだけで完結して伝承されるもの。伝説の場合は、その土地、もしくはランドマーク的な施設に関して語られることが多いので…
講義でも扱いましたが、白色にはさまざまな象徴性が含まれます。まず一般的には清浄・純潔、そして死の表象。これらは関連していて、前近代のアジア世界では、喪服や死に装束に白色が用いられています。上記の白亀を考えるうえで重要なのは、洪水を占った亀…
中国経由が多いですが、事例によります。桃太郎のモチーフには桃源郷伝承がありますが、物語の枠組み自体は、吉備津神社周辺の伝承など列島在来のものが使われています。『竹取物語』も、種々仏典や漢籍からモチーフを得ていますが、近年の研究では、やはり…
必ずしも部族、民族単位とは限りません。その伝承自体が、いかなる空間をフィールドとして、どのような機能を担っているかにより、それぞれ性格が変わってきます。例えば、同じAという村に伝わっている伝承でも、村全体に共有される、例えば村の掟の起源や…
この点をお話しするには、神話/歴史をそれぞれどう定義するかが重要です。ここでは、以前にお話ししたように、無時間性(起源性)/時間性(過程性)という区別を立ててみましょう。まず前提となるのは、エリアーデのいうように古代が神話的な時間にあたり…
「高誘注型」とのカテゴライズを用いて、授業で扱ったような神話・伝承を、環東シナ海文化圏全般で扱った研究というのは、実はぼく以前には存在しないのです。授業で扱ったものは厖大な数のなかの典型的なものですが、明確な高誘注型の形式を採るものはほと…
説話や伝承に刻み込まれた数字は、何らかの象徴である場合が多いですが、成立の背景がよく分からない場合など、なかなか読み解くのが難しい場合もあります。「十万八千年」は、干支の1週する60年が1800回回ってくるとのことでしょうが、「1800」の意味につ…
講義でも説明しましたが、現在人類学では、インセスト・タブーは女性の交換を促すために設けられたと考えています。すなわち狩猟採集時代、移動性であった人間の集団は15人程度が適正規模であり、その人数では、近親婚をした場合に縮小再生産に陥ってしまう…
近代になって採録された兄妹婚姻型洪水神話には、『旧約聖書』の影響を受けたとみられるものが明らかにあります。中国西南地域の少数民族にもキリスト教は布教されていますし、朝鮮半島の民間伝承には、まさにノアの物語として兄妹婚姻型を語る事例も存在し…