本ブログの説明

※ 現在、はてなダイアリーからの移行処理中です。レイアウトやフォントなどのデザインは、調整中のものです。新学期から正式に駆動の予定です。 - このブログは、上智大学で北條勝貴が担当している講義への質問の回答、演習科目(ゼミを除く)における学生の…

ボイコフ氏らによるオリンピック批判は、東京大会を対象にしているのでしょうか、それとも、それ以外のオリンピックも批判の対象なのでしょうか?

まずは東京大会の中止を求めていますが、IOCに対し、オリンピックそのものを停止するよう求める国際声明も出しています。世界の反オリンピック活動家が結集している、〈反五輪〉のホームページもありますので、参考にしてみてください。

オリンピックに伴うさまざまな〈浄化〉については、”クリアランス”より、ethnic cleansingの語がある”クレンジング”のほうが適切ではないでしょうか?

先住民族のマテリアル化の問題を考えると、確かにそうかもしれません。まあ造語なのですが、授業で〈オリンピック・クリアランス〉の表現にしたのは、そもそもオリンピックに伴う社会問題として注視されてきたのが、 slum clearanceであったためです。ジェン…

非・場所の話を聞いて、大手チェーンが戦略的に地方へ店舗を増やす様子を思いだしたのですが、これも侵略といえるのでしょうか。

情況によっては、新自由主義による公共性の破壊の問題に連結してきます。例えば現在、卸売市場法の改変に伴い種々の規制緩和がなされ、本来公共の空間であった地方卸売市場の跡地・隣接地が、イーオンやいずみやなどの大規模資本に独占されつつあります。改…

子育て幽霊に似た話ではあるのですが、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎は、墓から死んだ母の胎内から出てきています。このエピソードは、子育て幽霊と関係しているのでしょうか。

はいはい、これについては研究があります。例えば、姜竣さんの『紙芝居と〈不気味なものたち〉の近代』に所収の論文、「『墓場奇太郎』の誕生と成長」。水木しげる『ゲゲゲの鬼太郎』にオリジナル『墓場鬼太郎』があることはよく知られていますが、実はすで…

12/11の講義に際し、「オリンピックに際して老朽化した建物を再建することの何が悪いのか」とのリアクションがありました。これについては別の授業で講義していますが、その内容の一部をfacebookにアップしておきましたので、ここでも共有しておきます。

Olympic Flameの起源は、ギリシャ神話にみるプロメテウスの炎という。人間を憐れんだプロメテウスは、鍛冶神ヘパイストスの炉から火を移し取り、ゼウスの戒めを破って地上にもたらすが、それを受け取った人間は文明を発展させつつ、武器を造って戦争を激化さ…

先生の慰安婦問題に対する解説はミスリードではありませんか。政府は慰安婦の存在を認めていないと仰いましたが、政府は過去の韓国慰安婦からの請求に対し10億円もの賠償を行っており、存在を認めている証拠です。これを韓国政府は慰安婦に提供せず、国同士で交わした協定に違反する請求をし、和解・癒やし財団を一方的に解体しました。この問題は、日韓請求権協定で交わされたように、もはや日本の問題ではありません。人権重視も大事ですが、それを行使され続けたら、過去の清算などできません。

先週はパワーポイントのみの説明で、プリントを配付しませんでしたので、ぼくの説明がしっかりと伝わらなかったのかもしれません。関連のスライドは、下記に掲げておきましたので、参照してください。そのうえでですが、ぼくは日本政府が慰安婦の存在を否定…

中国への仏教伝来は、中国の歴史のなかで大きな出来事であるが、「子不語怪力乱神」を標榜する現実主義の中国に、どうして仏教の伝来が可能だったのだろうか。

中国への仏教伝来ですが、確かにまず、〈現実主義〉的なところからその受容が始まっています。例えば、六朝初期の士大夫ら知識人の間には、〈清談〉と呼ばれる文化がありました。儒教から老荘思想に至る種々の思想、思考の論理を用いて、高度な哲学的会話を…

資料に挙げられている経典類には、如法の呪術を行えば、「智慧ある男子」「美しい女子」を生むことができると出てきます。これは、男子/女子で求められるものが違うのだ、という認識でよろしいでしょうか。

まさにそうですね。卜占や呪術の類は、中国戦国の頃からクライアントとの交渉が行われ、求める方向、霊験などが模索されてゆきます。よって、卜占書の凶事の項目をみれば、当時の人びとが何を不安に思っていたのか分かりますし、吉事の項目をみれば、何を望…

中世末期から近世初期にかけての略奪林業によって破壊された環境は、その後の幕府・各藩の植林政策によって多少なりとも回復した…とのことですが、これは1666年の「諸国山川掟」を指すものでしょうか。

「諸国山川掟」については、果たして全国的な開発抑制策であったのか、淀川水系の治水目的に限定されるものではないか、との指摘がなされています。しかし、明らかにこれを受け継ぐ(授業でも触れた)貞享の禁令や、伐採禁令・土砂流出抑止策が諸藩から打ち…

草山・芝山の歴史には驚きました。世界遺産にもなっている熊野は、日本列島のなかでも緑の多い地域とされていますが、ここは何らかの形で保護されたのでしょうか?

熊野に限らず、寺院や神社の境内あるいは所領は、神仏を荘厳する道具立てとして、寺社が自らの用途に用いる以外、許可なく伐採することは禁じられていました。それらは神霊の宿るところである、無理に伐採すれば神仏の罰が降る、といった説明もなされてきた…

〈集合的アムネジア〉は、環境問題だけでなく、他の文化的・社会的な事象として確認できるかと思います。詳しく知りたいのですが、何か参考になる文献はありますか。

ひとつ重要な著作として、 アルフレッド・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ—忘れられたパンデミック—』(西村秀一訳、みすず書房、2004年〈原著1989〉)があります。いわゆるスペイン風邪(スパニッシュ・インフルエンザ)の大流行をアメリカからの視点…

草山が当時の人々の生活にとって必要不可欠なものであったということについて考えたとき、所有者は果たしてどのように決められていたのか疑問を抱いた。

概ね、個人所有ではなく入会地(共同体所有)です。共同体所有の土地と環境問題について考えた有名な概念に、ギャレット・ハーディンの〈コモンズ(共有地)の悲劇〉があります。どういう考え方かというと、例えば、複数の共同体成員が牛を放牧している牧草…

人間が生活してゆくのに自然は不可欠であるとすれば、どのように向き合ってゆくのが最適なのでしょう。環境史を研究している学者たちは、どのように考えているのでしょうか。 / 〈共生〉とはそもそもどのような状態なのでしょう。

この問題は、単に政治や社会、経済の問題としてのみ捉えるのではなく、ヒト以外の生命をどのように考えるのか、われわれは彼らとどのような関係を取り結んでゆくべきなのかという、倫理の問題でもあります。ぼくは仏教者でもありますので、あらゆる生命に優…

列島文化=自然との共生といった見方や、里山=伝統的農村景観のような言説は、一種イデオロギーやナショナリズム的であると思われますが、実際のところはどうなのでしょうか?

すべてがそうだ、とはいえませんが、ナショナリズム的側面を持ちうることは確かです。1990年代の後半に、オーストラリア大学の日本史研究者テッサ・モーリス=スズキが、〈エコ・ナショナリズム〉という言葉で、現代日本の自然観の一端を表現しました。彼女…

現在の日本史の教科書に環境史に関する記述が少ないのは、どのような意図によるものなのでしょうか?

ひとつには、教科書編集における保守性が原因でしょう。環境史という領域が、学界において一定の地位を得たのはそう古いことではなく、またその視点を援用すると、政治史や国家史の知見、社会史や思想史の知見にさまざまな変更を迫る事態が生じます。授業で…

先生は国民国家=ネイションにアイデンティファイしていないとのことですが、だとすればどのような政体が可能とお考えですか。

はい、もう何度かお話ししたことがあるような気がしますので、こちらとこちらに関係の回答を掲示しておきますから、まずは該当ページをご参照ください。基本的には、国家のような統合的政体ではなく、集団の規模を第一次産業の地産地消が可能な範囲に縮小し…

『呉越春秋』などにみる、母の脇(胸)を割って禹が生まれてくる話は、釈迦の誕生譚と類似している気がしました。何か関係があるのでしょうか?

釈迦が摩耶夫人の脇から生まれてくるという神話は、女性の腋下、もしくは服の袖口が生殖器の暗喩と捉えられていたことともに、女性蔑視に基づく生殖器忌避が関わるという、矛盾した情況から生み出されてきました。また、出産によって母親を苦しませない、と…

逸文の信頼性は、どのように検証するのでしょうか。

まず前提として、掲載されている類書に対する信頼性があります。歴代の『華林遍略』『修文殿御覧』『芸文類聚』『太平広記』『太平御覧』などは、王朝の正史と同様、王朝の威信を賭けた国家的事業として、あるいは勅を奉じ、唐代を代表する(場合によっては…

海外では、復讐譚の名作として『モンテクリスト伯』や『オリエント急行殺人事件』がありますが、日本では復讐より大切なものが出てきて、結局復讐は達成されずに終わるパターンが多い気がします。 / 仏教では復讐は肯定されないのでしょうか。復讐者自身を主人公にした説話などはありますか?

仏教説話については、確かにそういうパターンが多いかもしれませんね。仏教ではそもそも、復讐はまやかしの現実に束縛されている煩悩=執着に過ぎず、それに振り回されている限りは悪業をなす、もしくは悪業を振りまく結果にしかならないので、仏教的には必…

『源氏物語』において、葵の上を殺してしまう六条御息所の生霊のような存在も、討債鬼と呼ぶのでしょうか。

討債鬼、索債鬼の「債」とは、説話を読めば明らかなように〈負債〉のことです。よって厳密には、前世の負債を決済しなかった借り手に対し、貸し主が〈不具〉の子供になって生まれ、前世で取り立てられなかった分を今生で奪い取ろうとする存在をいいます。前…

レポートのテーマについてですが、「当該アクターの抵抗する動き」というのは、アクターがモノの場合、第三者のみせる抵抗でもよいのでしょうか?

モノをアクターと考える場合は、そのモノが他のモノ、動植物、人間などとの関係においてみせる動き、そうと認識される動きは、あくまで関係のなかで捉えられることを重視してください。これはモノだけではないのですが、あらゆるアクターのあらゆる動きは、…

レポートのテーマについてですが、「批判的に叙述する」とは、参考文献の筆者の意見を批判すればよい、ということでしょうか。

いわゆるクリティカル・リーディングを意識せよ、ということだと考えて下さい。大学で実践する学問、とくに社会科学系や人文科学系の学問においては、クリティカル・リーディングは基本です。研究文献や史資料に書かれていることを鵜呑みにするのではなく、…

レポートのテーマになっている〈素材化〉は、「人為的美化」「人為的誇大」と理解できますか。

アクターとして、本来多様な性質を持っているところを、人間が一定の目的のためだけに使用すべく、その他の要素をすべて排除してしまうのが〈素材化〉です。それは物理的な面でも、あるいは精神的、心性に関わる面でも生じえます。その結果が、確かに人間に…

古代で扱った聖徳太子の史料にしても、中世で扱った元寇の八幡宮関係の史料にしても、客観的事実ではない内容のものが多く残っていると知りました。歴史のなかには、このような祈りや奇跡を含む、主観的な記述が多く残っているものなのでしょうか?

とても重要な質問だと思います。歴史叙述の根幹に関わるような問題ですね。実は、東アジアにおける歴史叙述は、その根幹に、卜占的な未来予測の要素を含んでいます。それはすなわち、中国古代、殷王朝に開始される甲骨卜辞です。もともとは狩猟採集段階にお…

いわゆる天武系の歴代天皇によって形成された律令国家において、「聖徳太子」が歴史上重要な人物と位置づけられ、『日本書紀』であのような記述になったのは、律令国家が天皇親政を基礎とする政権だからでしょうか。仏教の文脈における重要性も、多少は加味されていますか?

もちろん、天皇の存在が日本律令国家には不可欠ですので、そもそも厩戸王という「王族」が聖人のモデルに選択されたのは、天皇を中心とする中央集権体制が構想されたことと関係します。しかし、実在の厩戸王が、蘇我氏と連携しながら仏教興隆に貢献したこと…

少数民族の神話を伝承してゆく手段は、非常に限られてくると思うのですが、具体的にどのようなものがあるでしょうか。

まず第一に口頭伝承ですね。今日授業でお話ししたとおり、歴史学研究者には、文字記録よりも口頭伝承を曖昧、もしくは不確かなものだと考えている節がありますが、歴史実践をめぐる人類学研究では、何十代も前に遡る首長の系譜と活動を、淀みなく物語ってゆ…

異形の者が英雄的存在として語られることは分かるのだが、生まれ方の異常さと、生まれた者の異常さの、2つの系統があるように思う。これらは異なるルーツを持つものなのだろうか。

なるほど、興味深い質問です。異常出生譚、いわゆる生まれ方が異常な例は、例えば聖徳太子(厩戸王)や行基など、通常の人間としてのありようが、史実として確認できる存在にも用いられます。太子は馬屋の前で難なく生まれ、生まれながらにして聡明で言葉を…

蛇=雷神は、生命力の象徴としても現れると分かりました。東洋の龍は川の象徴の側面があると聞いたことがありますが、これもまた生命の象徴とすれば、蛇と龍の相違は何なのでしょうか。

例えば中国ひとつをとっても、龍や蛇に対する言及は無数に存在しますので、どこに視点を置いてみるかによって異なる様相を呈してきます。しかし概していうならば、蛇と龍の相違は上位神霊か下位神霊か、ということになるでしょう。例えば道教では、龍は水と…

岩石感精の例のひとつとして日光感精を挙げられていましたが、日本で太陽神といえば天照大神で女性であり、精を授けられるのか納得がゆきません。

ぼくの話し方が悪かったかもしれませんが、日光感精の例を挙げたのは、自然物から感精して王を生む、英雄を生むというパターンの1例としてです。そのうえで幾つか付け足しておきたいのですが、まず、古代から現在に至るまでの時間のなかで、天照大神が男性…