歴史学特講(日本古代史:19秋)

オリンピックに伴うさまざまな〈浄化〉については、”クリアランス”より、ethnic cleansingの語がある”クレンジング”のほうが適切ではないでしょうか?

先住民族のマテリアル化の問題を考えると、確かにそうかもしれません。まあ造語なのですが、授業で〈オリンピック・クリアランス〉の表現にしたのは、そもそもオリンピックに伴う社会問題として注視されてきたのが、 slum clearanceであったためです。ジェン…

子育て幽霊に似た話ではあるのですが、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎は、墓から死んだ母の胎内から出てきています。このエピソードは、子育て幽霊と関係しているのでしょうか。

はいはい、これについては研究があります。例えば、姜竣さんの『紙芝居と〈不気味なものたち〉の近代』に所収の論文、「『墓場奇太郎』の誕生と成長」。水木しげる『ゲゲゲの鬼太郎』にオリジナル『墓場鬼太郎』があることはよく知られていますが、実はすで…

非・場所の話を聞いて、大手チェーンが戦略的に地方へ店舗を増やす様子を思いだしたのですが、これも侵略といえるのでしょうか。

情況によっては、新自由主義による公共性の破壊の問題に連結してきます。例えば現在、卸売市場法の改変に伴い種々の規制緩和がなされ、本来公共の空間であった地方卸売市場の跡地・隣接地が、イーオンやいずみやなどの大規模資本に独占されつつあります。改…

資料に挙げられている経典類には、如法の呪術を行えば、「智慧ある男子」「美しい女子」を生むことができると出てきます。これは、男子/女子で求められるものが違うのだ、という認識でよろしいでしょうか。

まさにそうですね。卜占や呪術の類は、中国戦国の頃からクライアントとの交渉が行われ、求める方向、霊験などが模索されてゆきます。よって、卜占書の凶事の項目をみれば、当時の人びとが何を不安に思っていたのか分かりますし、吉事の項目をみれば、何を望…

中国への仏教伝来は、中国の歴史のなかで大きな出来事であるが、「子不語怪力乱神」を標榜する現実主義の中国に、どうして仏教の伝来が可能だったのだろうか。

中国への仏教伝来ですが、確かにまず、〈現実主義〉的なところからその受容が始まっています。例えば、六朝初期の士大夫ら知識人の間には、〈清談〉と呼ばれる文化がありました。儒教から老荘思想に至る種々の思想、思考の論理を用いて、高度な哲学的会話を…

レポートのテーマになっている〈素材化〉は、「人為的美化」「人為的誇大」と理解できますか。

アクターとして、本来多様な性質を持っているところを、人間が一定の目的のためだけに使用すべく、その他の要素をすべて排除してしまうのが〈素材化〉です。それは物理的な面でも、あるいは精神的、心性に関わる面でも生じえます。その結果が、確かに人間に…

レポートのテーマについてですが、「批判的に叙述する」とは、参考文献の筆者の意見を批判すればよい、ということでしょうか。

いわゆるクリティカル・リーディングを意識せよ、ということだと考えて下さい。大学で実践する学問、とくに社会科学系や人文科学系の学問においては、クリティカル・リーディングは基本です。研究文献や史資料に書かれていることを鵜呑みにするのではなく、…

レポートのテーマについてですが、「当該アクターの抵抗する動き」というのは、アクターがモノの場合、第三者のみせる抵抗でもよいのでしょうか?

モノをアクターと考える場合は、そのモノが他のモノ、動植物、人間などとの関係においてみせる動き、そうと認識される動きは、あくまで関係のなかで捉えられることを重視してください。これはモノだけではないのですが、あらゆるアクターのあらゆる動きは、…

『源氏物語』において、葵の上を殺してしまう六条御息所の生霊のような存在も、討債鬼と呼ぶのでしょうか。

討債鬼、索債鬼の「債」とは、説話を読めば明らかなように〈負債〉のことです。よって厳密には、前世の負債を決済しなかった借り手に対し、貸し主が〈不具〉の子供になって生まれ、前世で取り立てられなかった分を今生で奪い取ろうとする存在をいいます。前…

海外では、復讐譚の名作として『モンテクリスト伯』や『オリエント急行殺人事件』がありますが、日本では復讐より大切なものが出てきて、結局復讐は達成されずに終わるパターンが多い気がします。 / 仏教では復讐は肯定されないのでしょうか。復讐者自身を主人公にした説話などはありますか?

仏教説話については、確かにそういうパターンが多いかもしれませんね。仏教ではそもそも、復讐はまやかしの現実に束縛されている煩悩=執着に過ぎず、それに振り回されている限りは悪業をなす、もしくは悪業を振りまく結果にしかならないので、仏教的には必…

逸文の信頼性は、どのように検証するのでしょうか。

まず前提として、掲載されている類書に対する信頼性があります。歴代の『華林遍略』『修文殿御覧』『芸文類聚』『太平広記』『太平御覧』などは、王朝の正史と同様、王朝の威信を賭けた国家的事業として、あるいは勅を奉じ、唐代を代表する(場合によっては…

2019年秋「歴史学特講(日本古代史)」のレポート課題です。

Loyolaの画面 レポート課題を、以上のようにLoyolaに入力しました。何度かお話しした、素材化(material/aization)の問題です。次回の授業にて詳しく説明します。なお評価に際しては、以下のポイントを重視します。a)テーマ、問題意識のオリジナリティb)…

東北の屠殺調査についての質問です。オーラル・ヒストリーの内容はすべて真実であるとして、今後も調査を進められるのですか?

授業をよく聞いてください。まず、今回の調査について、ぼくはすべてを肯定して語った覚えは一度もありません。以前に4月の調査について少しお話をして、前回は、11月の調査でそのときの情報がかなり修正された、とお話をしました。すなわち、文献を読むと…

水葬は、下流のことなどは考えなかったのでしょうか。 / 水葬が、疫病の流行の原因になることなどはありましたか。 / 日本神話で、ヒルコを川に流すことと関係するのでしょうか。 / てるてる坊主は、晴れたら川に流すものと覚えています。雨というよくないものを引き受けてくれたのでしょうか?

授業で紹介したチベット、あるいはその周辺地域での水葬については、やはり下流地域との軋轢もあって、現在はあまり行われていません。チベットでは出産に関わる限られた埋葬法でしたが、しかしインドのガンジス川のように、何から何まで「流して」しまうの…

石や岩は生命を生み出す象徴になっていると、よく分かりました。なのになぜ、子供を産めない女性のことを「石女」というのでしょうか? かつて一体であった両義性が、二極分化したとみていいのでしょうか?

そうですね、授業でも紹介したジン・ワン氏などは、そうした見方をしています。現代からみると異なる要素が一体になっている論理について、かつてレヴィ=ブリュールは〈融即の論理〉と呼称し、それが作用している心性を〈原始心性〉と名付けました。すなわ…

禹は防風神を再生させたにもかかわらず、その子孫が貫胸人となっているのは、罪は許されていない、子孫にも引き継がれるということなのでしょうか?

ああ、その観点はありませんでした。恐らく、そういうことになると思います。どこかで言及しましたが、『易経』には「積善の家には余慶あり、不積善の家には余殃あり」との一文があって、儒教の家の論理を体現するものとしてよく引用されます。仏教の因果応…

岩石感精の例のひとつとして日光感精を挙げられていましたが、日本で太陽神といえば天照大神で女性であり、精を授けられるのか納得がゆきません。

ぼくの話し方が悪かったかもしれませんが、日光感精の例を挙げたのは、自然物から感精して王を生む、英雄を生むというパターンの1例としてです。そのうえで幾つか付け足しておきたいのですが、まず、古代から現在に至るまでの時間のなかで、天照大神が男性…

蛇=雷神は、生命力の象徴としても現れると分かりました。東洋の龍は川の象徴の側面があると聞いたことがありますが、これもまた生命の象徴とすれば、蛇と龍の相違は何なのでしょうか。

例えば中国ひとつをとっても、龍や蛇に対する言及は無数に存在しますので、どこに視点を置いてみるかによって異なる様相を呈してきます。しかし概していうならば、蛇と龍の相違は上位神霊か下位神霊か、ということになるでしょう。例えば道教では、龍は水と…

異形の者が英雄的存在として語られることは分かるのだが、生まれ方の異常さと、生まれた者の異常さの、2つの系統があるように思う。これらは異なるルーツを持つものなのだろうか。

なるほど、興味深い質問です。異常出生譚、いわゆる生まれ方が異常な例は、例えば聖徳太子(厩戸王)や行基など、通常の人間としてのありようが、史実として確認できる存在にも用いられます。太子は馬屋の前で難なく生まれ、生まれながらにして聡明で言葉を…

少数民族の神話を伝承してゆく手段は、非常に限られてくると思うのですが、具体的にどのようなものがあるでしょうか。

まず第一に口頭伝承ですね。今日授業でお話ししたとおり、歴史学研究者には、文字記録よりも口頭伝承を曖昧、もしくは不確かなものだと考えている節がありますが、歴史実践をめぐる人類学研究では、何十代も前に遡る首長の系譜と活動を、淀みなく物語ってゆ…

今日お話しされていた「踊る猫」のエピソードで、修行した猫が超自然的な力を得るというのが、何かとても気になりました。『100万回死んだ猫』のように、不死になるということでしょうか。あるいは『人間になりたがった猫』のように、人間にグレードアップするための力でしょうか。

授業でもお話ししましたが、猫は、人間にとって、〈文化のなかの野生〉とでもいうべき位置を占めています。日常生活のなかで私たち人間と共生しながら、決してドメスティケートされてず、私たちのありようを根底から覆すような目線、力を秘めている。長生き…

殺生功徳論は、単なる人間のエゴにしか思えません。人間は、一度肉のおいしさ、毛皮の温かさを知ったら後戻りできないと思うのですが、いかがでしょうか。 / 仏教的価値観の広まっていた当時の狩猟者たちには、殺生功徳論は生きてゆくために必要だったのではないでしょうか。 / 殺生功徳論について、生きているうちには自殺・他殺・随喜同業のどれかによって殺生をしてしまうので、彼らを殺してしまったからには自分が功徳を積み、報われるようにしなさいという思想ではないのでしょうか?

まず最初に、ぼくは、人間が反省と改善が可能な存在だと思っています。ぼく自身も、まったくの無知、傲慢な状態から、猛烈な反省を繰り返しながら、少しずつ前に進んできたと考えています。それを信じていなければ、学問も研究もできませんし、教育の現場に…

中国やヨーロッパの就業のあり方については明るくないのですが、利益を生む毛皮市場を選択している人々に、「屠殺を押しつけている」という言い方は言い過ぎではないでしょうか。

デリケートな問題ですが、まず講義の文脈を考えてください。中国やロシアの毛皮工場が環境保護団体から批判を受けている情況について、「一方的な非難は正しくない。グローバリズムの観点からいえば、中国やロシアの国内市場のためだけに、このような生産が…

日本の妖怪ブームの火付け役は水木しげるなのでしょうか?

妖怪ブームは、近世以降何度か日本史のうえに確認できます。近代以降は、やはり明治の急速な近代化・西欧化、戦後の高度経済成長期など、社会・文化が大きく変動し、伝統的なものが揺るがされる時代情況で生じているようです。水木しげるの妖怪への関心は、…

反出生主義は、人間のエゴではないでしょうか。

客観主義的には、エゴだと思います。「生まれてこない方がよかった」と日々呟いているひとのなかには、死が目前に迫ってきたとき、必死で抵抗し生きようとする人もたくさんいるでしょう。しかし同時に、本当に塗炭の苦しみを味わっている人、そう呟かなけれ…

ペットを飼っている人が、増えすぎて育てられなくなってしまうのを防ぐために避妊手術を施すことについて、どう思われますか?

まず、動物を人間の管理下に置き、愛玩用に飼育するということ自体に反対です。もちろん、愛玩用に交配された新種の生産、価値を上げるためのブリードにも反対します。他者としての動物を理解し、人間の傲慢に気付くために飼育するのであれば、可能な限り自…

現在ウサギは命の大切さを知る、というような名目で飼われていますが、戦前・戦中に毛皮・非常食用として飼育されていたなんて、衝撃を受けました。何か、転換の契機があったのでしょうか。 / 一般の家庭でも、ウサギの屠殺を行っていたのでしょうか。

それほど明確な契機はなかったと思いますが、しいていうならば「敗戦」でしょうね。戦前・戦中は、戦争継続の諸物資を確保するため、人間も含め、動物の素材化が著しく進んだ時代です。家族として大切に飼育されていた、犬や猫も供出されてゆきました。各地…

樺太でキツネ養殖を行っていたのは国営ではなく、個人が多かったと仰っていました。そののち、全国に養殖施設が拡大すると、利益を得たい者による独占的な動きなどはなかったのでしょうか?

残念ながら、まだそのあたりの趨勢は詳しく調査していません。ただし、各地域ごとに会社や組合ができ、それらが養殖の知識・技術を詳述した書物や情報交換の雑誌を創刊していたところからすれば、競合してつぶし合うというより、団結して発展してゆこうとす…

キツネの養殖について、ロシアはカナダのケージ飼育の方法を知っていたのでしょうか。知っていたなら前例のある巣箱ではなく、なぜ放牧を選んだのでしょう。

授業でもお話ししましたが、チャールズ・ダルトンがケージによる飼育方法を確立する1894年よりも前に、ロシアでは、アリューシャン列島〜プリビロフ諸島の調査中に青狐の棲息する島を発見、試験的飼養を開始しています。ダルトンの飼育方法も、当初は周辺の…

全国樺太連盟所蔵の手書きの地図は、引き上げてきた元の住民の方々が集まって作ったものだと聞きました。人の記憶なので誤っていることもあると思うのですが、どこまで信憑性のあるものとして使えるのでしょう。

上記手書き地図は、純粋に記憶のみからできているわけではありません。当時の町並の写真や映像、絵画、記録などは多少は残っていますし、当時の行政文書や統計文書もあります。それらをできるだけ収集し、住民の方々の複数の記憶を繋ぎ合わせて作られたもの…