全学共通日本史(11秋)
確かに、そういうシーンは目にしますね。まず犬の場合、最後の授業でも絵巻をみていただきながらちょっとだけ触れましたが、犬が何かを察知して吠え騒ぐ場面が、緊張や事件の前触れとして描かれることがあります。遠吠えは夜半、静けさの象徴でしょうが、犬…
中国古代の仰韶文化などに、埋葬時の容器の内側に魚紋を描く事例があり、魚を再生の象徴とみていたと思われます。戦国末〜漢代の『山海経』には、死んでからすぐに復活した帝顓頊の乗り物の龍を、半魚の神「魚婦」としており、やはり魚を再生の象徴と捉えて…
中国の道教では、蝉が仙人の象徴と認識されています。俗人の抜け殻を捨て、神人として生まれ直すという意味ですね。アジアでは、そうした観点から昆虫を特別視する要素もみられます。しかし、日本列島に限定していうと、絹生産において珍重される蚕以外には…
それほど違いはなかったと思いますが、水に関わりを持つ蛇の生態が、洪水や鉄砲水などの水害を蛇そのものとして表象してゆくのですね。『古事記』に登場する八岐大蛇も、出雲の斐伊川が山々を削って扇状地に押し寄せる洪水の神格化とみられています。狭い谷…
まずは、サギやツルといった目立つ容姿の鳥が、田起こしを始める春先や、稲穂の実る夏頃に、水田を訪れる生き物のなかにあったということでしょうね。銅鐸にある長首・長脚鳥の絵画には、魚をくわえているものも認められます。当時の水田は川と直結しており…
狐憑きについては、2つの側面から考える必要があります。1つは、「狐憑き」とされる当事者自体に異常な言動が確認される場合。その少なくとも一部は、何らかの精神病の一種と考えていいでしょう。現在でも精神科には、「脳内にチップが埋め込まれ国家に操…
日本列島で崇められている神格は、このような極端な両義性を持つものが多いのです。例えば『古事記』『日本書紀』の神話で有名なスサオヲにしても、一方ではヤマタノヲロチを倒すような英雄性を発揮しつつ、一方では彼の泣き叫ぶありさまによって草木は枯れ…
恐らくは人工的に増やしたというより、農村だけでなく都市でも猫を飼育することを勧め、贈与の関係のなかで拡大していったということでしょう。ペスト菌を媒介するノミは、ネズミに付くことで蔓延してゆきますが、実は猫にはつきにくいことが実験で立証され…
一概にここからここまで、とはいいがたいものがあります。アニミズム的な世界観を持つ地域では、生物のみならず無生物、人工物に至るまで、霊性を認められる場合があります。本当に森羅万象の一切が信仰されうるのですが、しかし細かくみてゆくと、そのなか…
アヌビスは死者の領域を管轄していますが、やはり犬が屍肉をあさることと関わりがあるのでしょう。モンゴルではオオカミがトーテム動物として信仰されていますが、モンゴル民族は死体をオオカミに食べて貰わないと、天上へ上れないと考えていたようです。ギ…
猫又自体の記述は中世前期から見受けられるのですが、未だ尾が二つに分岐したものとの形容はありません。当時は、それこそ「狸」で代表されるような山獣とみられていた節があり、100年生きた猫が猫又になるなどの話が出来上がるのは江戸時代以降のようです。…
長く生きるものへの信仰は、恐らく、人間の寿命を超えたものへの畏怖が根底にあると思われます。古い道具や家具が化け物になる「付喪神」ももちろんそうですし、古い家、古井戸なども恐怖の対象として捉えられることがあります。動物では、万年生きるという…
ベアリング=グールド、セイバイン 2009(1856)ウェルズ恵子・清水千香子訳『人狼伝説―人食いと迷信の関係について―』人文書院ベルナール、ダニエル 1991(1981)高橋正男訳『狼と人間―ヨーロッパ文化の深層―』平凡社ローレンツ、コンラート 2009(1949)小…
どうでしょう。やはり、犬や猫の置かれている環境は、様々な「愛玩種」の創出も含めて特殊でしょうね。冗談ではなく、「カワイイ」というカテゴリーで捉えられる一連の動物群については、現代人の心性を表していて興味深いと思います。人間が固定化した枠組…
唐代の段成式が編纂した、『酉陽雑俎』続集巻一/支諾皐上に載る「葉限」という娘の物語などがそれです。平凡社の「東洋文庫」というシリーズに日本語訳がありますが(このシリーズだと第4巻)、これは大学の端末からみることができるJapan knowledge+で、…
講義でもお話ししましたが、狐も狸も、野生と文化の境界に現れるもので、山や森から来て里に出現するという存在なのです。一方の猫は、家の中から出てきて、やはり野生と文化の境界に出現する。両者は境界線を挟んでシンメトリーの関係にありながら、"マージ…
以前に紹介した宇多天皇の日記において、彼が可愛がってやまなかったのは黒猫でした。よって、日本にはもともと黒猫を忌む発想はなかったものと思います。恐らくは、中世ヨーロッパにおいて、猫が悪魔や魔女に属するものとカテゴライズされたとき、それらを…
なぜなんでしょうね。恐らく動物学的にはさほど大きな理由はないかもしれませんし、また「死ぬ直前に姿を消す」という人間側の認識自体、誤解かもしれません。自分が飼い主のつもりになっていたら、実は餌をもらっている家が複数あった、という猫も多くいる…
実は、『信貴山縁起絵巻』や『石山寺縁起絵巻』に描かれている猫は、首紐を付けている、いわゆる紐飼をされているんですよね。『枕草子』89「なまめかしきもの」にも、「いとをかしげなる猫の、赤き首綱に白き札付けて」と出てきますし、『源氏物語』若菜上…
なぜなんでしょうねえ。いろいろ象徴的解釈はできると思うのですが…恐らくは、ブーツを履くということは二足歩行が前提になるので、立ち上がって踊る猫の延長にあるものなんでしょうけどね。しかし、物語の流れとしては、王様に拝謁するための礼装の、最低限…
ご指摘のとおりですね。昔話研究、神話研究などでいう「見るなの禁」の問題です。ただし「鶴女房」譚や、日本最古の「見るなの禁」譚である『古事記』の黄泉国神話では、主人公と結婚した異類らが「見てはいけません」と禁止をかけるものの、主人公がその約…
これはまだ詳しく考察したことはないのですが、狼や虎が人に化けて人間社会にもぐり込んでいる話と、猫が人に化けて人間社会に潜んでいる話とでは、同じ内容でも意味が異なるのではないかと思います。前者は中国発祥ですが、少し授業でも触れたように、虎ト…
朝鮮半島には、中国と同じようにトラ・トーテムの痕跡があります。地続きで隣接しているだけあり、朝鮮の諸伝承には中国由来のものが多いですね。我々はどうしても近代の国家イメージで捉えてしまいがちですが、朝鮮族も倭人も、中国の56民族と同じレベルで…
平安時代の王朝文化といっても、すべてが先例に則って動くわけではありません。遣唐使廃止以降も、中国からは様々な文物が積極的に取り入れられていましたし、人々は新鮮なものを求め、新しい文化を生み出していました。以前にもここに書きましたが、王朝文…
家猫の起源は概ねリビア猫(Felis lybica)とされていて、まずエジプト周辺で家畜化がなされたものだろうと推測されています。エジプトの古代文明における猫の神聖視は、その最初期の歴史を示すものでしょう。ヨーロッパには山猫はいましたが家猫はおらず、…
【テーマ】 講義で扱ったトピックを任意に選んで自分なりのテーマを設定し、講義の内容を踏まえたうえで調査し考察せよ(自分なりの解答を出すこと)・自分なりの問題観心を持つこと、文献は批判的に読み込むこと、事実/見解を区別すること、他人の見解/自…
そう考えてもいいかと思います。日本の漢文に出てくる場合は、たいてい、『切韻』や『広韻』、『一切経音義』など、中国の音韻辞書からの引用です。
直接的な回答にはなっていないかもしれませんが、ネコの語源のひとつに数えられる「ねうねう」という鳴き声は、『源氏物語』においては「寝よう寝よう」、すなわち性交渉をしようという誘いの言葉だと解釈されています。これなどは、猫の特徴を体現した言葉…
院政末期に成立した『信貴山縁起絵巻』には、奈良の都の庶民の家に、紐でつながれた猫の姿が描かれています。平安中期までには宮廷で愛玩されていた猫も、中世が始まる頃には庶民のもとで飼われていたと考えられます。紐飼いという飼い方も宮廷とほぼ同じで…
眠り猫は、眠ったふりをして鼠を捕まえる様子から辟邪の効力があるといわれたり、猫が眠っていられる太平の治世を象徴しているといわれたりしますが、いずれも、平安時代の猫観からそう離れてはいないと思います。招き猫については、豪徳寺などにその由来が…