子育て幽霊に似た話ではあるのですが、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎は、墓から死んだ母の胎内から出てきています。このエピソードは、子育て幽霊と関係しているのでしょうか。

はいはい、これについては研究があります。例えば、姜竣さんの『紙芝居と〈不気味なものたち〉の近代』に所収の論文、「『墓場奇太郎』の誕生と成長」。水木しげるゲゲゲの鬼太郎』にオリジナル『墓場鬼太郎』があることはよく知られていますが、実はすでに戦前、1930年代初めに、伊藤正美という人物が紙芝居『墓場奇太郎』を作成しています。これは、関西地方で流行した姑の嫁いびりの話を題材に、意地の悪い姑にいびり殺された嫁が土葬になり、妊娠していた赤ん坊が墓のなかで生まれ、母の屍肉を食べて地上に出て、姑に復讐するという陰惨な話であったようです。これは、当時まだ存在した産死習俗とも関わりがあった話のようで、幾つかのヴァリエーションも作られ、とくに戦後すぐの荒廃期、エログロナンセンスが流行した時期には、やはり死んだ母から生まれた奇形児が主人公の英雄譚が、数本作成されたことが分かっています。水木しげるの描いた片目のない鬼太郎は、このあたりを起源にしているのでしょう。なお、1930年代や戦後すぐになぜ産死習俗にまつわる物語が流行ったのかは、前者については戦争へ向かう社会の閉塞感、後者については、戦災孤児の問題、大陸から引き上げる途中に暴行を受けた女性の自殺が相次いだことなど、当時の世相が反映されていると考えられます。