2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧
樹木を伐る際に唱えられていたと思われる祝詞・祭文の類は、他にも幾つか見出すことができます。有名なのは『延喜式』神祇/祝詞に載る「大殿祭祝詞」で、木鎮めの技術を受け継ぐ忌部氏が樹霊を天皇居宅の守護神化するものなのですが、その前半部分は伐採時…
鎌を持った死に神のイメージは、恐らくタロット・カードあたりから普及するものでしょうから、日本においては現代的なものですね。ただし、その受け皿となった信仰、概念は中国に由来するものとして古代からあります。『霊異記』には、冥界から死期の迫った…
シヴァリンガですね。あれは男性器と女性器の交合した形で、世界の誕生を表すものです。世界を象徴する点では式盤と同じ意味を持っていますが(風水思想においても、女性器と類似の形状を持つ地形こそが最も理想的な空間と考えられていますしね)、起源や機…
安倍晴明が狐の子であるという話は、謡曲や浄瑠璃、歌舞伎の〈信太妻〉において語られます。原型となる人間と狐の異類婚姻譚は『霊異記』上2に確認できますが、それが晴明の出生と結びつくためには幾つかの段階が必要なようです。講義でも扱った鎌足の鎌を狐…
講義でもお話ししましたが、簡単にいってしまうとやはり〈境界〉的な存在なんでしょうね。狐は自然の森・山=野生と、人間の住む里=文明を往復する存在です。同様の現れ方をする鹿や猪が、農作物を食い荒らす害獣として駆除される一方、山神の使いとして祀…
急いでいて、ちゃんと講義でお話しできなかったですね、申し訳ありません。まず、杣において樹木を引き出すことは、それ自体が山の神の世界、樹霊の世界から人間の世界への移動を意味します。〈材木化〉の画期なので、伊勢神宮や諏訪大社でも木曳きが重視さ…
Kさんは、注釈書とテクストを対照しながら読んでくれたようですが、ヲコト点に対する理解が充分ではなかったようですね。また、授業でもいいましたが、九月癸丑朔乙卯条が途中で分断されていて、本当ならば「復た諸国に課て船舶を造らしむ」まで含まなけれ…
授業中に指摘した「泊」の左訓以外、翻刻は大変よく出来ていました。レジュメは、注にもう少し努力が欲しかった(注釈書だけに頼るのでなく)ところですね。内容的には、授業中に指摘したように重要な要素の多いところでした。まずは、射猟や相撲といった年…
黒田智 2002 「「鎌倉」と鎌足」鎌倉遺文研究会論集編集委員会『鎌倉期社会と史料論』東京堂出版 2007 『中世肖像の文化史』ぺりかん社 中村禎里 2001(1994) 「鎌足と狐」同『狐の日本史』古代・中世編 日本エディタースクール出版部 深澤徹 2006(1996) …
柳を女性に見立てることは、そもそもその樹影が女性のしなやかさを連想させたからこそ生じてきたのでしょう。『柳氏伝』や『青邱野談』もそうで、必ずしも婚姻譚とは見なせないものでしょう。問題は、そうした柳=女性をめぐる男女の物語が、柳の持つ神話、…
樹霊に限らず、異類婚姻によって生まれてくる子は「普通の子」ではない場合が多いですね。よく力が強いとか、何らかの超能力を持っていると語られます。日本最古の仏教説話集(奈良末〜平安初期の成立)『日本霊異記』には、雷神の申し子である道場法師が怪…
樹木婚姻譚は、大木の秘密のように単純に自然への勝利を語るものではなく、樹木と人間との交流を細やかに描いている点がネックですね。授業では背景にある山々の荒廃を強調しましたが、常に樹霊というものの実在を意識している木鎮めの文化、それを担い続け…
・有岡利幸 2004 ものと人間の文化史118『里山II』法政大学出版局・小椋純一 1992 『絵図から読み解く人と景観の歴史』雄山閣出版 1996 『植生からよむ日本人のくらし―明治期を中心に―』雄山閣出版・何清谷校注 2006 『三輔黄図校注』三秦出版社・郭富光 199…
Q. レポートの内容は日本を舞台にしなくてもいいのでしょうか。A. 講義の内容を踏まえてもらえれば、他国を扱っても構いません。日本を含む東アジアとの比較もちょっと入れてくれると、なおいいですね。Q. レポートで、地方にある寺の由来として語られる樹木…
近世の絵画世界で成立するものと考えていいでしょうが、その背景には様々な心性の反映があります。ひとつは講義でも扱った、東アジア全域に及ぶような女性と柳との関わり、別れの象徴であること(死と結びつきやすい)。もうひとつは川の問題。柳は川の付近…
聖/賤が表裏一体で容易に返還されるファクターであることは、人類学・民俗学・宗教学などの分野でよく言及されてきました。最も典型的な事例は「ケガレ」に関わる民俗です。『古事記』上巻の神話世界では、アマテラス・ツクヨミ・スサノヲの三貴神は、イザ…
「金科玉条」といわれるように、基本的に律令の条文自体は変更されません。しかし、律令に規定されている事柄は大まかなものにすぎませんし、元来中国王朝の法規定をほとんどそのままに継承した内容ですので、時代や社会に合わないことはたくさん出てきます…
『周易』はそれなりに普及しており、知識を持った貴族は大勢いたでしょう。しかし、彼らに仲麻呂の意図が充分読み取れたかどうか、恐らくよほどの学者でなければ無理だったと思われます。これは、『家伝』が誰に向けて書かれたのかという問題、歴史叙述の性…
『書紀』は『周易』によるものではありません。この部分、「大織冠伝」が卦を持ち出しているのは、鎌足の神祇伯召命・三島退去をクーデター肯定史観より正当化する必要があったからで、山背謀殺を動機にしうる『書紀』はその時点で正当化がなされているので…
やはり実証性でしょうね。講義で扱った太秦の具体例は、すべて実証できるものです。というのは、『史記』等々の漢籍と太秦とを結びつける記事の大半が、秦氏から派生する惟宗氏の著作物を典拠とするからです。現在残っている「秦氏本系帳」の逸文も、すべて…
死と再生の月桂は中国に固有のものです。オリンピックの月桂冠は、ギリシア神話で光明神アポロンの聖樹となった女神ダプネーが、アポロンの頭上に葉を降らせたことに由来します。ただし、ダプネーは川の神の娘ですので、明確には言い表せないものの、東アジ…
樹木の宗教的な力の源は様々に表象され、神祇や木霊そのもののほか、蛇や狐、あるいは妖怪のような存在が宿り主として描かれることがよくあります。木霊そのものではありませんが、樹木の力を分かりやすい形で表そうとした結果なので、伐採抵抗伝承として同…
これは徒刑でしょうね。律に基づく刑罰のひとつで、現在の懲役に当たります。賃金を必要としないので、都城の修営や清掃に便利に使われたのです。
近代には分かりやすい事例が幾つもあります。私の作成した『環境と心性の文化史』の伐採抵抗伝承集成にもかなりの事例を集めましたが、笹本正治さんの『蛇抜・異人・木霊―歴史災害と伝承―』が、この問題に関する重要な著作です。「蛇抜」とは、鉄砲水を大蛇…
論理的にはヨーロッパ等にあってもおかしくありませんが、寡聞にして知りません。4世紀頃の聖人伝など、『日本書紀』の伐採説話とよく似た内容のものが出てきますので、今後気を付けて調べておきたいと思います。
少し誤解を招くような言い方をしてしまいましたね。西洋には異類婚姻譚がまったくないということではなく、人口に膾炙する典型的なパターンに、魔法にかけられ異類に変わってしまった貴人を救済する系統のものが多い、ということです。いかなる内容の物語が…
Tさんも、文章としてはだいたい読めていましたが、句読点を示すヲコト点が判別できていなかったようですね。字訓にも多少間違いがありました。ただし、レジュメの施注は詳細で、参考史料や図表も掲げられており、よい出来だったと思います。後は上のSさん…
翻刻は概ねよくできていましたし、奥書や蔵書印にも気を付けていてよかったです。だだ一点、兼右独特の省略的な訓の付け方(例えば、8頁7行の「葬(ミ)」をミハフリと訓むことなど)には、もう少し注意が必要でしたね。レジュメは簡にして要を得た施注でし…