鹿や猪など、古来からの動物に対する信仰心が、現在の日本にほとんど残っていないことに驚いた。礼儀を重んじる儒教的な精神など、古来から「日本人的な思考様式」として残っているものがある一方で、こういった動物信仰が残らなかったのはなぜだろうか。 / 蛇は多くの神社でご神体になっていますが、鹿や鳥にはそうした例はあるのですか。
確かに、近現代になって動物に対する信仰は衰えているかもしれませんが、それは宗教全般の衰亡という傾向のなかでのことであって、神社や寺院その他における動物信仰は各地域に濃厚に確認できます。まず鹿については、藤原氏の氏神である奈良の春日大社、茨城の鹿島神宮においては神の使者として保護されています。猪は少ないかもしれませんが、例えば、岡山の和気清麻呂を祀る和気神社では、狛犬の代わりに猪が神使として神社を守っています。鳥については烏がとくに有名で、広島の厳島神社、和歌山の熊野三社では神使として崇められています。神社で祀られていなくとも、地方で神的存在とみられている例はまだまだありますね。なおなお、「礼儀を重んじる儒教的な精神」は中国的なものであって、それを日本が受け継いで定着させたに過ぎません。「和をもって貴しとなす」も『論語』や『礼記』の言葉なので、「十七条憲法以来、日本人は和を大切にするのが固有の信条で…」などといわれるのも誤りですね。