『大智度論』に紹介される鹿王の説話について、動物の主との類似、アニミズムやシャーマニズムとの繋がりがみられるとのことですが、ぼくのなかでは、インド社会は早くから文明化が進んでいるとの印象があります。バラモン教の教えのなかにも、自然との繋がりなどは確認できるのでしょうか。

いくら文明が栄えていても、自然との繋がりはあるものです。現代文明もそうなのですから。バラモン教の関係でいえば、その終盤の時期のブラフマナ文献、ウパニシャド文献などに記載される五火説があります。これは、死者の霊魂は天上へ昇り、いったん月に留まってから雨となって地上へ降り注ぎ、草木に吸収されてその果実=穀類となり、それを食べた男性の精子となって、性交渉を通じて女性の胎内に入り再び子供として生まれてくる、というものです。五火とは、この段階を祭礼に用いる5つの火に準えています。素朴ですが、自然の直接的観察に基づいた、世界に普遍的に存在する死/再生の観念に属する輪廻説といえるでしょう。