「史」という名前が文章を書く能力に優れた人に与えられるとのことですが、例えば「紀貫之」の「紀」なども意味があると聞いたことがあります。「紀」はどういった人に与えられたのでしょうか?

「史」は、もともと名前というより、姓=カバネなのです。すなわち、その氏族の王権との関係、王権に対する奉仕の内容を示したものです。田辺史は、氏名ではなく、田辺=ウヂ名、史=カバネの構成です。すなわち、王権に文書の執筆・編纂などの職掌で奉仕していた、田辺史氏という渡来系氏族なのです。藤原不比等は彼らに養育され、その知識・技術を吸収して、名前として「史」を名乗ったということです。一方、紀貫之の「紀」はウヂ名です。紀氏は紀伊国に出自する豪族で、かつてヤマト王権の外交であった紀ノ川の河口=紀水門を勢力範囲とし、水上交通や対外軍事、外交に力を発揮した人々でした。すなわち紀氏の「紀」は地名ですが、そもそもの地名の原義は、山林資源の豊富な地域として「木」を意味したものと考えられています。