社会のなかで人間の文化や思想が変化するのは明白なので、心性史のような考え方が今までまったくなかったとは考えられないのですが、近年盛り上がっているのには何か理由があるのですか?

心性史の成立と展開については(とくに環境文化研究との関わりに於いて)、以前「〈環境と心性の文化史〉へ向けて」(増尾・工藤・北條編『環境と心性の文化史』上、勉誠出版、2003年)で詳しく触れたことがありますので、場合によってはそちらを参照してください。ひとつ誤解があるかも知れないと思うのは、「社会のなかで人間の文化や思想が変化する」ということを扱うのが心性史ではない、ということです。それだけなら、思想史や精神史も同じことです。心性史は逆に、人間の心が社会を変化させる力を持つことを重視するのです。また、思想史や精神史が時代を代表する個人(哲学者や宗教者、文学者など)の著作を対象とするのに対し、心性史は社会一般の庶民のものの考え方、感じ方を扱います。混同して使う人が(歴史学者でも)非常に多いのですが、厳密な使い分けが必要です。