『万葉集』だけがなぜ自然と共生的な思想で書かれているのですか。

まずは個人の歌を収めた書物であるからで、いくら大王や王子の作ったものであっても、王権という政治システムから発せられる思想とは、必然的に異なってくるのだと思います。当たり前のことですが、古代人も、個人的には自然を愛好する性向を持っていたのです。また、飛鳥周囲の開発が進んで美しい景観が失われることによって、逆にバランスをとろうと自然美を詠む歌が多くなった、ということもいえるでしょう。講義の初回の方で紹介した自然との一体化を説く本覚思想も、列島の耕地化が大規模に進み里山が一般的景観となる中世後期に確立してきます。