昔、歌人がもてはやされたのは言霊信仰も一因だったとされているが、なぜ言霊という思想が出現したかが疑問だ。 / 言霊信仰は日本独自の文化なのでしょうか。それとも中国から入ってきたのですか?

言霊は、必ずしも日本固有の思想ではありません。世界的に広く認められる、シャーマニズムの範疇に属する信仰です。宗教学や人類学の用語で、やはり原初的な宗教形態を表す言葉に「マナイズム」があります。これは、あらゆるものに生命と活動の本質としてのエネルギー「マナ」が宿っているという考え方で、例えば矢が飛ぶのも、人間が放ったからではなく、矢に宿っているマナの力によると考えます。このような観点からすると、言葉が人に情報を伝えたり、あるいは(古代社会で信じられていたように)神霊に訴える呪術的な力を持つのは、それに宿るマナの働きのためなのだと解釈できるでしょう。世界各地に様々な形態で残る呪術には、神的存在に働きかけるための呪言がたいてい伴っていますし、宗教にも聖なる言葉は欠かせません。キリスト教典礼の言葉、仏教の経典読誦、神道祝詞奉読など、すべて神霊と交渉するツールであるがために、誤読や改竄は許されないものです。それらは多かれ少なかれ、日本の言霊のありようと重なるものだと思われます。