イヲマンテが異類婚姻をモチーフに行われているというのは、研究者の解釈でしょうか、それともアイヌの人々の内的認識でしょうか?
いい質問です。イヲマンテで祭祀に供される子熊は、講義で引用した神謡にも現れているように、人間を養い親とする存在です。アイヌにも、ナーナイなどと同様に熊を同族とする意識は存在しますので、殺害され子供を奪われた母熊と狩猟者との間には、子熊を通じて疑制的な婚姻関係が成り立っているわけです。トンプソン・インディアンの「山羊と狩人」の神話よろしく、狩猟対象を妻とし子とする神話も、飼熊送りを行う狩猟採集民には多くみられます。一部には講義で紹介したとおり、狩猟した雌熊との疑似性交渉を儀礼的に行う習俗も存在します。現在のアイヌには狩猟を性交渉とみる認識は強くないかも知れませんが、上記のような事実から、イオマンテを支える異類婚姻譚の世界が想定されているわけです。