「涙の歴史」について関心があります。時代によって感覚が変わるということが、どのように分かるのでしょうか。

心性史や感性史の実証性は、どれだけ多様な史料(文学作品から行政文書まで)をどれだけ大量に集めて分析したか、によって決まります。例えば涙についていえば、それらの史料について、涙を流す場・要因、主体の生別・年齢・階層・教育水準など、様々な要因について多角的にデータをとってゆきます。その結果、時間的に傾向が推移してゆくことが確認できれば、「涙には歴史がある」ということになります。環境・政治・経済・社会の変化などと関連付けて、その要因を探索してゆくのが次の段階です。日本の近現代で考えるなら、例えば人前で泣くことの羞恥の希薄化は、ここ数十年の間に起こってきた変化なのではないでしょうか。メディア等を通じて、涙と癒しが結びつけられ、「気持ちよく泣くこと」を奨励しようとする動きもみえます。このような些細な変化に注目し、その推移を慎重に見守ってゆくことが大事なのです。