なぜ昔から男女差別があったのでしょうか。それは律令などによって人工的に作られたのですか、それとも人間の本能なのでしょうか。

「差別」は近現代的な人間観に基づいているものの見方なので、それを前近代に直接当てはめて考えようとすることは誤りです。しかし仮に、男女平等の立場に立って女性が不当に扱われる情況を「女性差別」と捉えたなら、それは明らかに社会的・文化的に構築されたもので、俗にいう本能などでは決してありません。しかしこれは複雑な問題で、歴史・社会の場面場面に則して考察されなければならないのです。例えば、アイヌでは重要な祭礼において女性の入場を禁忌とする場合がありますが、女性の自由に振る舞う権利が抑制されているという意味で、これは明らかに差別です。しかし、アイヌたちにその理由を尋ねると、「祭祀は神霊と人間とが命がけで交渉する場であり、極めて危険が高い。そんな場所に、大切な女性を関わらせるわけにはいかない」との説明が出てきます。「女性の安全を守る」という意味では、これは差別ではなくなります。しかし、近代的思考において、排除された女性が「差別」と感じたらもう差別になってしまう。また、なぜ女性が守られねばならないかを深く追究した結果、「女性が産む性であるから」との結論が出て来たら、やはりそれは差別だ、ということになってしまうでしょう。差別は極めて複雑でデリケートな問題なので、吟味する場合には注意が必要です。