神話の段階からすでに兄妹婚はタブーなのですね。人間はいつからそれを禁止したのでしょうか?

インセスト・タブーと呼ばれるものですが、全世界的に認められる禁忌のひとつです。かつては、劣性遺伝により生物学的に忌避されたのだとか、エディプス・コンプレックスによって説明されたこともありましたが、現在では、女性の交換を促すための社会的規則であると考えられています。かつて遊動生活を行っていた人類は、概ね15人程度の親族集団をなしていましたが、同族内で結婚を繰り返すと縮小再生産となり、集団はいずれ滅びてしまいます。生き残るためには他集団から女性を獲得しなければなりませんが、暴力的に強奪していたのでは、社会全体が滅びてしまうことになります。そこで自然に成立していった約束ごとが、同族集団のなかでは結婚をしない、すなわち、女性は他集団の結婚相手に定めるということだったのです。諸地域・諸部族の神話にみられるインセスト・タブーは、それを遵守させるための命令であったわけです。しかし、社会の発展によって近親婚を行っても集団の存立が保たれうる状態になると、一方では禁忌の意識を残しながら、一方では近親婚が行われるようになってゆきます。日本列島などはまさにその典型で、イザナキ・イザナミの神話も結局は近親婚を許容しています。逆にいうと、タブーはあくまで社会的な約束ごとであって、生物学的に決定される本能などではないということです。