他者がどういうものなのかは何となく分かりましたが、他者の反対側にある主体はどういうものなのでしょう。自分のどこからどこまでが主体として規定できるのでしょうか。例えば、多重人格の主体とは何なのでしょうか。主体の範疇がよく分かりません。

大変に重要な問いかけです。これまでの講義の枠組みは、近代学問のディシプリンを前提としていますので、主体とは確立された近代的〈個〉以外の何ものでもありません。しかしご指摘のとおり、その範疇では多重人格者等々捉えきれないものもでてきます。また、そもそも〈個〉なるものが確立しているのかという疑問もあるでしょう。そうしてみれば、〈主体〉とは極めて曖昧かつ大まかに把握される行為者、観察者のことだと定義せざるをえないでしょう。量子力学的にいえば、この視座が定まらない限りは対象もありえないわけですから、それは常に対象との相関関係に置かれます。主体とは、他者との関係で、さらに変動し続けるものと考えられるでしょう。