この授業を聞いていると、高校までの内容とは食い違ったり、それを否定する内容が多いように思います。中学・高校では、なぜ習っていることを「学説に過ぎない」といわないのでしょうか。

2週続けて類似の質問をくださっているのですが、この点は講義の出発点としてお話ししたことです。2回にわたり授業しましたので、しっかり復習をしておいてください。端的にいってしまえば、中高の国史教育が「国民のアイデンティティーを涵養する」目的を持つからです。アイデンティティーの根拠となる歴史が事実でなく学説であるとすると、あまりにも不確実性の高いものとなり、同一性を動揺させる、あるいは侵害するものとなってしまいます。それゆえに学説的な記述、編纂者・記述者の主体を明確にした記名記述を避け、あたかも偏りも曇りもない、客観的な事実であるかのような書かれ方をしているのです。