先生ご自身も、歴史研究と歴史教育は違ってしかるべきとお考えですか?

これについては、初回のガイダンスにおいて私自身の考えを説明し、またそれについて自分なりの解答を出してゆくことが、皆さんの課題だとお話ししました。例えば、歴史研究の世界は仮説の積み重ねであり、最新の学説でも容易に覆ってしまう危険性が常に伴います。歴史教育の世界では、それが国民国家アイデンティティーを構築するものであるという意味においても、また受験や一般教養の意義においても、将来的な見通しが充分ではない学説を採用するのは問題がある、できるだけ充分に吟味検証され否定されにくい定説で叙述したい、といった考え方はありうるでしょう。しかし、あらゆる歴史叙述が仮説に過ぎないことを自覚し、現在目前にある見解やその根拠となるデータを批判的に取り扱うことを前提にすれば、最新の学説を情報として提供することは可能でしょう。個人的には、歴史研究と歴史教育の距離を可能な限り縮小してゆくのが理想です。