私度僧は中国でも大量発生したと聞きましたが、なぜ人は僧になりたがるのでしょうか。

僧侶になると一般民衆の戸籍から除かれ、課税対象から外されます。もちろん、これはきちんと国家の許可を得て試験などに合格した場合ですが、戸籍に登録された土地を離れて浮浪逃亡する際、僧体をとることを隠れ蓑にしたものでしょう。また、当時民衆に大きな支持を得ていた行基集団に身を投じるなどして、保護して貰うことを期待した場合もあったと思います。官立の寺院でも、実はこのような私度僧のなかから弟子を得て、正式に得度させることもあったようです。『日本霊異記』をまとめた景戒も、その出発点は私度僧ですが、やがて薬師寺に所属し僧位も持つ官僧となってゆきます。奈良時代も後半になると、当初は律令の建前から禁圧を進めていた国家も、これらを一部容認する姿勢に転じます。私度僧になることは法律違反であり、もちろんリスクを伴いますが、強い信仰心に裏打ちされ、通常の生活に多くの困難を抱えているものには、一定の救済を得られる選択であったのかもしれません。