どうして、天皇の顔ははっきり描くと不敬に当たるのでしょう。 / 『源氏物語』などの大和絵では、はっきり描かれていた気がするのですが…。

天皇の顔を描かない表現は、絵巻における「貴人の顔かたちをいかに描くか」という問題に起因するようです。絵巻には、庶民の顔は多く個性的・写実的に描かれていますが、貴人の顔はいわゆる引目鈎鼻で、高位のものほど抽象的に表されてゆきます。美術史研究の山本陽子氏は、天皇のように最も高位な存在については、「抽象の極致として描くことが避けられた」のではないかと推測しています。一般に肖像の忌避は、平安末期の似絵の流行によって消滅したとされていますが、実は近世に至っても、絵巻はもちろん、色紙や屏風などの源氏絵、障壁画などに至るまで、天皇の顔は隠されてゆくのです。ただし、これはあくまで風習であって厳しく守られたわけではなく、尊属や神仏など目上の存在と対する場合などに例外を見出すこともでき、時代を降るに従って曖昧になってはゆくようです。