仏教や東アジアの神話と、一神教であるキリスト教の『旧約聖書』に近似した世界樹の記述があるのが不思議だな、と思いました。「木」というのは、やはりどのような地域であれ、生命の宿るものとされるのでしょうか。

旧約聖書』創世記は、西アジアのさまざまな神話的要素を受け継ぎ、再構成することによって成り立っています。智恵の実をイヴに食べさせる蛇の話も、ギルガメッシュ神話における、不死の力を横取りする蛇に共通します。生命の木・智恵の木のイメージは、シュメール、アッシリアの時点における王権のシンボル、ナツメヤシに由来すると考えられています。乾燥化してゆく環境のなかで、水を蓄えている樹木は、まさに生命の源だったのでしょう。また、宗教学者ミルチャ・エリアーデは、樹木信仰は樹木そのものを崇めているのではない、樹木に表象される何らかの力に対する信仰だ、と述べています。再生の力、天と地を繋ぐ力などがそれで、世界の樹木信仰、樹木神話の大半はこれを根幹としています。