槃瓠の伝承は、『遠野物語』に出てくるオシラサマの話とよく似ている気がします。この2つは、何か関係があるのでしょうか。 / 二十四史をモチーフに『南総里見八犬伝』が書かれているとのことですが、江戸時代の人びとは二十四史の内容を知っていたのでしょうか。ならば、当時読まれていたテクストはどこにあるのでしょうか。
異類婚姻譚という意味では同じですが、内容は異なります。このレベルで似ているとしてしまうと、同じ神話・伝承が無数に出てきてしまいます。しかし、オシラサマの原型となった、ほぼ同じともいうべき馬娘婚姻譚も、『捜神記』に収録されています。同書が日本文化に与えた影響は大きく、恐らく同じ『遠野物語』の山男・山女の話も、『捜神記』から出たものです。ただしそれが『捜神記』から直接民間伝承化したのか、それとも『和漢三才図絵』などの類書を通じて一般化したのかは、より詳しい検討が必要です。槃瓠伝承も、『後漢書』より『捜神記』ですね。しかし、二十四史云々の件は、江戸時代の漢学者、国学者には「通常の知識」であったとしてよいでしょう。江戸時代は漢籍天国で、中国から新たな書物も輸入されていますし、日本でも出版されています。いわゆる倭刻本には良本も多く、漢籍研究においては当たり前の知識ですよ。