いま現在残っている文献で、蘇我氏よりに書かれているものはないのでしょうか。

上にも書きましたが、『書紀』が批判的に描いているのは、晩年の蝦夷と入鹿の2人であり、決して蘇我氏を完全に否定しているわけではありません。また入鹿については、中臣鎌足の伝記である『藤氏家伝』大織冠伝に、僧旻が自分の塾のなかで卓越しているのは入鹿と鎌足であると評価したこと、尊大な入鹿が鎌足にだけは礼を尽くしたことなどが描かれています。明らかに鎌足を正当化するための叙述ですが、引き合いに入鹿を登場させるところに、8世紀初めに至るまで彼が偉大な存在であったと意識されていたことがうかがわれます。