儒教や仏教が日本人の精神を規定していたのは確かでしょうが、私はもっと根本的なところでは、神道に根ざしているのではないかと思いました。

そういう気持ちは分かります。しかしこれも授業で触れていることですが、神道は中世に作られるもので、古代においては存在しません。古代では、地域地域に根ざしたアニミズム的信仰を中央が把握する形で、次第に明確化・体系化が進んでゆきますが、「道」で表されるべき独自の道徳・倫理・思想が存在したわけではないのです。またこのアニミズムについても、例えば7〜8世紀に作られた祝詞などをみると、明らかに儒教道教の字句・表現が用いられており、古代の神観念が中国的なそれとの交渉のなかで形成されてきたことが分かります。容易に、「根本は神道」などとはいいえない世界なのです。ちなみに、現代人が感覚的に捉える神道は、近代に至って国家的に創られたもので、近世以前の神道や神社のあり方をねじ曲げており、真に伝統的なものではありません。