「ハーメルンの笛吹き男」の話で、子供を請負人に引き渡した親たちの後ろめたさが、伝承を発生させ維持させてきたと聞きました。しかし、それは現代の私たちの想像であって、当時の子供たちを思う気持ちは、今日とは違うのではないでしょうか。 / 後ろめたさが伝承を生むとは、具体的にどのようなことなのか。
子供が古代から現代に到るまでどのようにみられてきたかという、『子供の誕生』という書物も、アナールの歴史家 フィリップ・アリエスの著作にあります。それによれば、確かに中世には子供という概念がなく、7歳前後に言語コミュニケーションが可能になると、大人と同様に労働するものとして扱われたと論じられています。しかし上記は、いわゆる近代以降の〈子供〉認識以前に、自分の血縁者を口減らしのために売り渡すことへの罪悪感が問題とされています。芸能者の差別に対する報復も、やはり倫理的問題が絡んでいます。世界的に語り継がれる神話や伝承の多くには、経済的、社会的、倫理的な負債感を相対化し、自分たちの行為を正当化したり、隠蔽する方向で語り出されたものが極めて多く存在します。「ハーメルン」の場合も、そうした意識が集合的に広がっていればいるほど、支持を集め、語り継がれていったと考えられます。