物語りのマイナス点で、トラウマ記憶や後付けバイアスなどについて伺いましたが、これらは一歩間違えれば改竄になります。先人や我々の物語が社会のなかに蓄積され参照されるのだとすれば、このようなマイナス点を含んだ情報が参照されても、我々の生を豊かにするものにはならないのではないでしょうか。

トラウマ記憶や後付けバイアスによって作られた物語りは、個々人の防衛機制として働くものなので、多く社会的機能を発揮するものとしては蓄積されない、共有されない種類のものと思います。それらが人々の口の端にのぼるときには、やはり苦痛の経験とは無縁には語られないでしょうから、これまでそうした経験をしたことのない「幸せな人々」には、自己を拡張する豊かな実りをもたらすはずです。