民俗学の大変さを知りました。折口は文学の起源を探究したとのことですが、その起源が漂泊の巫女だったという解釈であっていますか?

そうですね。詳しくは、『古代研究』『国文学の発生』などを参照してください。現在、文学というとほぼ「書かれたもの」を指しますが、前近代においては、とくに時代を遡るほど、文字に依存しない物語りがその大半を占めていました。アジアでは、労働や儀式の際に謡われる即興の歌謡が、まだしっかりと生き残っていますが、折口は、それらの起源にはより宗教的なものがあると考えました。恋愛の歌よりも神霊と感応する歌が、そしてシャーマンに憑依した神霊自身が謡う歌が、物語りがその根源にあるはずだと。現在、神社は常設の形式が一般的ですが、かつては神聖な場所はあっても、そこに神霊は常住していませんでした。神霊は儀式に伴って来臨し、その語りは漂泊のシャーマンが担っていた。村々を定期的に訪れ、神霊を招いて祝福の言葉を述べるシャーマンの語りが、祝詞になり、祭文になり、神話になり、記録されて文学になってゆく。折口はそのような着想を抱いていたのです。