耳谷、女場、角部内など、蛇神伝承の地が津波浸水域に重なっていることに驚いた。もしそうなら、他の場所でも、これから起きるかもしれない災害を予測しうるのではないか?

いや、もちろんそうです。例えば数年前、広島で大規模な水害がありましたが、同八木地区の被害地域には「蛇落地悪谷」との特徴的地名が残っていました。長野でも鉄砲水のことを「蛇抜(蛇が通り抜ける)」といいますが、水害を蛇の物語として表象する例は多く、各地に残っています。そうした場所は、過去に水害が起きている可能性が高く、今後もその危険性があるということですね。それ以外にも、水が出ること、山が崩れること、津波が襲うこと、島が陥没することに関連する地名、伝承もたくさんあり、研究も蓄積されています。かつては共同体内で未来への警告として共有されていた知識が、共同体の崩壊を通じてどんどん欠落している。「想定外」ではなくて、「想定」していると目の前の欲望を達成できないので、「想定」自体を除外してしまう風潮が強くなっているのです。注意が必要です。