19世紀後半から20世紀前半にかけて、さまざまな思想が生まれてきて、これまで人々が考えてきたことの否定がなされてゆく。大変面白いが、なぜこの時期にこうした現象が起きたのだろう。

これまでお話ししてきたマルクスの考え方や、あるいは、科学的な思考の枠組みが転換するというトマス・クーンのパラダイム・シフトといった概念が、参考になるかもしれません。近代は、産業革命によって土地の束縛から解放された労働者が増加し、彼らを駆使する資本家を中心に富裕層が拡大、その階級的利益を継続させるべく、優秀な次世代の再生産を目指して教育への関心が高まります。国民国家は帝国的拡大のなかで苛酷な競争へと突入し、富国強兵の必要から有用な人材の育成に期待し、上記の機運を支持します。また一方で、植民地の拡大はこれまでのヨーロッパ世界にはなかった知識をもたらし、学問時代の深まりと拡大、更新を喚起してゆく。社会史の項目でお話ししたフランスの研究者たちは、まさにそういった時代・社会情況のなかから生まれた〈国家貴族〉といってよく、民族学的データに基づき議論を組み立てたデュルケーム、デュルケミアンたちの著作は、植民地主義がなければ成り立たなかったといえるでしょう。