日本の社会史がマルクス主義のアクチュアリティを継承したとのことですが、実証主義歴史学とはどのような関係だったのでしょうか。また、アクチュアリティとは、物語り的な歴史とはまた違ったものなのですか。

アクチュアリティとは、直訳すれば「現在性」ということになるでしょうか。その学問が、現代的な問題にどれだけ誠実に向き合い、対応しようとしているかを意味します。先後のマルクス主義歴史学は、戦前・戦中のナショナル・ヒストリー全盛期にあっては無視されていた、民衆の歴史、女性の歴史などに焦点を当ててきました。そうした、これまでの歴史学が見向きもしなかったもの、取りこぼしてきたもの、隠蔽してきたもの、マルクス主義歴史学はそれらを救済することに努め、社会史もそれを継承したということです。実証主義はあくまでも方法論で、それ自体に思想性はありませんので、この点に関してはあまり軋轢はありませんでした。実証主義が批判の対象としたのは、やはり究極的には「実証ができていない」ということで、例えば社会史の下層民の位置づけには思想性が投影されすぎているとか、史料の読み方が杜撰であるとか、理論に頼りすぎているとか、そうした論証や解釈の具体的な点であったと思います。