実証主義の認識論が経験主義であることについて、客観性を求める実証主義がなぜ経験主義なのか、よく分かりませんでした。

確かに、そこには重大な自己矛盾があります。実証主義は、例えば史料批判における真偽判断を、歴史学者の「経験」に委ねます。その背景には、歴史学者の知と方法が、充分に訓練され信頼のおけるものだという自負が含まれており、実際その場合も多いのですが、しかし常に正確で正当性のあるものとは限りません。例えば、彼の経験にまったく含まれない問題が出来し、経験からの類推も不可能なときには、歴史学の知は何の効力も発揮しないことになります。本来ならば、その厳粛な限界性をしっかりと受けとめたうえで、可能な限りの客観性を目指すことを標榜すべきですが、伝統的歴史学はそうした態度を取ってはこなかったということです。