[東京大学:宗教学宗教史学特殊講義(17秋)トンパ経典をみると、何か占いをすべき対象があってからこの経典が開かれるというより、人々が頭のなかに事前にその内容を入れておき、烏の行動をそれに基づいて区別しながら対処してゆくもののように思われるのですが、この経典はどのように扱われるものなのでしょうか。

授業でも扱いましたが、恐らく唐代の百怪図と同じような使用のされ方でしょう。すなわち、何か怪異が生じたときに、トンパを通じて経典が検索され、その意味が告知されるということです。しかし、『以烏鴉叫声占卜』のなかには、より日常的な知識も多く詰まっています。経典に書かれた内容の大半は、民俗知あるいは一般常識として、よく知られていた可能性もあります。ちなみに、占い師を示すトンパ文字は女性の形象を持つため、本来ナシ族には卜占専門の女性宗教者が存在、のちにこれがいなくなったために、卜占の実践も祭儀を行うトンパに一元化されていったと想定されています。