人間関係で政治史をみるのはナンセンスだとの話がありましたが、排斥事件や人事の史料をみるに当たって、人間関係はやはり重要な判断材料になるのではありませんか?

そうですね、確かに人間関係も大事なファクターです。授業での話し方が悪くて誤解を招いたかもしれませんが、人間関係のみを解釈の中心に置き政治史を考えることが、意味を持たなくなってきているということです。マルクスの思想を思い出していただきたいのですが、人間の意志は、時代情況、社会や経済のあり方によって大きく制約されています。誰かが誰かのことを好んだり、あるいは逆に嫌悪したりするのも、時代や社会から独立した事象ではありえません。例えば、その時代に好まれた姿形や言動が、無意識のうちに作用したりしているわけです。それらのことを前提に考えた場合、政治の動きは、人間関係の背景にどのような社会のあり方、国家の動きが絡んでいるかが重要なのです。特定の政治集団の圧力によって、人間関係が歪められたり断絶させられたり、あるいは逆に構築されたりすることがある点に、充分注意せねばなりません。