祟り神になるのは猪神だけなのだろうか。また、なぜあれほど人間に憎悪をたぎらせていた普通の猪たちは、祟り神にならなかったのだろうか。

 論理的には、猪神だけでなく、同じ階層に属する犬神や猩々たち、そして人間も祟り神化しうるはずです。物語のなかで猪神が多く祟り神化するのは、〈猪突猛進〉という言葉どおり、彼らが直情径行の生き物として設定されているからでしょう。つまり、憤怒や憎悪がストレートに表現される。犬神などはより理知的で、それを自負し、猪神を卑下しているような様子も見受けられます。また乙事主自身が、「我々はだんだんと馬鹿になって、体も小さくなり、やがて普通の動物たちと変わらなくなってしまう」と語っているように、普通の動物には祟り神へのルートは開かれていない。いわば、猪神や犬神たちは、動物よりも人間に近い存在に描かれていることになりますね。面白いところです。