避諱の制度ですが、名乗るのを忌む、というのはいつからある習慣なのでしょう。/そもそもなぜ名乗るのを忌むのでしょう。逆に使用することで尊崇の念が増す、という考え方はなかったのでしょうか。

 起源はいつなのか、というのは勉強不足で分かりませんが、諱とは正確には本名のことで、中国では目下の者が目上の者の本名を呼ぶのは礼に悖る行為とされていました。そもそも名とは個を特定するものなので、呪術などに用いられれば大変危険であり、無闇に明かさない方がよい。よって身分の高い人を〈名指し〉=特定することが憚られたのでしょう。そういう類感呪術的な発想に基づく危機感、忌避感が、基底にはあるのではないかと思われます。中国戦国末の睡虎地秦墓からみつかった「誥」という悪霊撃退マニュアルでは、怪異現象をもたらす存在の「名」を特定し、対処法を示します。名が分かった時点で、怪異は半分怪異ではなくなってしまう。どこかで繋がっているメンタリティーのように思われます。