熊野では以前に風葬が行われていて、烏に遺体を啄ませており、その際に「ケガレ」「生命の再生に重要な役割を持つ神聖な動物」というイメージが分かれたと聞きました。現在の烏の印象は前者が強く残ったものでしょうが、他にも死体を処理した動物はいたはずなのに、烏のみにそうしたイメージがあるのは不思議です。

烏には、もともと中国から引き継いだ神的イメージがあります。太陽のなかに住むとされた三本足の烏は、そのままタカミムスビの使者であるヤタガラスとなり、神武を導きます。熊野の烏はこのヤタガラスですね。他にも厳島神社など、烏を神もしくはその使者として扱う例は確認できます。熊野の烏は、中世の起請文に用いられた牛王宝印にも描かれ、契約を守護するイメージも付随してゆきました。一方で死肉を啄む不吉な印象も存在しますので、現在のような複雑な像として構築されたのでしょう。そういう意味では、やや特別な鳥獣なのです。