黄泉国のものを食べると戻れなくなる、という発想の根源は何なのでしょうか。

確かではありませんが、ある社会なり共同体なりに新しい成員が加わるとき、そこで作られた料理を食べさせることで帰属の証とする通過儀礼が存在したようです。平安時代には「三日夜の餅」という儀礼があり、露顕(ところあらわし)という、現在の結婚披露宴の一環として行われました。具体的には、露顕の夜に新郎新婦へ祝いの餅が供されることで、妻家の竈で作った料理を食べさせ婿を同族化する意味があると推測されています(中村義雄『王朝の風俗と文学』塙選書、1962年)。喪葬儀礼も、死者を現世から他界へ送り、帰属させるという意味では通過儀礼の一種ですので、恐らく発想の根幹は同じでしょう。