装飾文様から壁画への変化が、線刻から描画への変化でもあることに驚きました。線刻の方が長く残りますし手間もかかるので、装飾としては上等なもののように思いますがどうでしょうか。「進歩」とは簡略化なのですか? / 彩色と線刻では、描かれているものが同じ場合、同じ意味になるのでしょうか。

これは、線刻の文化と描画の文化とのモードの新旧に由来することと思われます。線刻は人間が文字や絵を描くときの方法として最もプリミティヴな方法で、身体と刻むことのできる硬質な道具があれば可能なワザなのです。それに対し、描画は顔料の作成を下準備として、用途に応じた塗布道具の多様化をもたらし、また線刻ではなしえなかった多彩な表現を可能にしてゆきます(彫刻の技術水準も併せて考えなければなりません)。後者が朝鮮半島から将来されたとき、人々が線刻を放棄して飛びついたのも無理はないようでしょう。恐らく、長期に残存するかどうかという要素は、多彩華麗な表現・色彩を前にしたとき、それほど拘るべきことではなかったと思われます。そのようにして描かれた文様は、線刻と比較したとき、より呪術的性能を高く認識されたと推測されます。