郎女が海のなかでみつけた白珠を、途中で放してしまうのはなぜですか。生者と死者は一緒にいられないという暗示でしょうか。
あれは、川本喜八郎の表現が、原作に追い着いていない箇所といえるかもしれません。打ち寄せる波のなかを通る一本の道は、浄土教でいう二河白道を表しているのでしょう。それは、燃えさかる炎と逆巻く波のなかにか細く通る救いの道です。郎女はその道のうえで白珠をみつけるのですが、救っても救ってもこぼれ落ちてしまう。やっとのことで拾い上げて胸に抱くと、今度は大浪が襲ってきて、郎女の体はそのなかに呑み込まれてしまうのです。衣をはぎ取られて海のなかを漂いつつもも、それでも郎女は白珠を離さない。このくだりは、まさにシャーマンの憑依体験を表現しています。荒れ狂う波は怨霊の欲望のすさまじさで、郎女はそれに足を取られぬように、また翻弄されつつも、現世的執着の向こう側にある純粋な魂を掴み取ろうとするのです。