王殺しが首長霊を取り去る作業なら、逆に新たな身体へ憑依させる祭儀もあったと思うのですか。

日本で最も注目されるのは〈真床襲衾(マドコオブスマ)〉と呼ばれる大嘗祭の秘儀です。秘儀ゆえに、具体的にどのようなことが行われているのか分からないのですが、ニニギが天孫降臨の際にくるまっていた敷物に体を包むことで、太子は天皇霊を憑依させ新天皇として再生するものと考えられています。しかしより厳密には幾つかの学説が対立しており、大きく分けると1)先帝と新帝との共寝、2)新帝と神の嫁である采女との聖婚に大別できます。ともに折口信夫の議論から展開しているのが面白いところですが、大嘗宮を喪屋と捉えて首長霊の継承を重視する説、あるいは逆に産屋と考えてミアレ(神の誕生)と同一視する説など、様々なバリエーションがあります。