『千と千尋の神隠し』を心理学的にみると、少年少女の成長を表しているのだと聞いたことがあります。同じ映画でも、アプローチの仕方でずいぶんみえてくるものが違うのだと思いました。

映画というものは、必ずしも制作者の意図に従って観なければいけないというものではありません。ただし作家論として考えるならば、「少女の成長を描いている」という〈分かりやすい見解〉は、宮崎駿の意図とは違っています。彼はインタビューのなかで、「『千と千尋』は少女の成長を描いたものではない」ということを明確に語っています。どんな子供にも備わっている生きる力は、彼の考えるところでは、成長によって得られるものではなく、生命という自然に属するものなのです。それがこの物語の最も大事なところですから、あくまで作家論的にいうなら、「少女の成長を描いた」という解釈はまったくの誤読です。