当時の日本には、仏教と対立するような宗教はなかったのですか。地方で廃仏などの動きはなかったのですか。

まったくなかったとは言い切れませんが、日本が外来宗教の受容に極めて寛容だったことは、神祇信仰の成り立ちからも立証できます。神祇信仰(後の神道)は、列島固有の宗教のようにいわれていますが、古代に存在した神社のなかには、朝鮮半島から入ってきたものも多く見受けられますし、「適切に祭祀すれば豊穣をもたらすが、それを怠ると祟りをなす」という性格自体、中国の廟神に由来するものです。もちろん、将来されてきたすべてが定着したわけではなく、その取捨選択に列島的な独自性を見出すことも可能です。しかし、民間へは儒教道教もさほどの混乱なく入ってきているので、仏教だけが拒否されたとは考えられません。抵抗があったとすれば、『書紀』崇仏論争の皇位継承争いのように、政治的要素が絡んできた結果としてでしょう。