史料8の『書紀』の記述で、確かに一度は蛇(雷神)を捕獲・制圧していますが、その後恐れて逃がしているのは、神を尊ぶ姿勢の表れなのでしょうか。制圧するなら完全にコントロールすればいいのに、と思ったのですが。

『書紀』は神と天皇との関係をところどころで修正し、天皇の権威を高めようとしていますが、すべてを徹底的に捏造しているわけではありません。ここはやはり、情報ソースである小子部氏の伝承に大きく規制されたのでしょう。また、天皇の自然神への優位は、天武〜持統朝における天皇即神の醸成によって確立してゆきますが、例えば律令国家の典型的祭祀である祈年祭は、「自然神を上回る権威を持った天皇が、自然神に国家の安寧と五穀豊穣を祈る」というねじれ構造を有しています(それもあって早期に衰退してゆくのですが)。天皇制は、このような矛盾を抱えながら推移してゆくのです。