雷神が人間に虐待を受けるという物語群は、国家の信仰上、問題があったのではないでしょうか。具体的に浸透するのはいつだったのですか? / 性交渉の象徴であり、以前は信仰されていた雷神はなぜ避けられるようになったのですか?

雷神虐待の伝承も、類型としては「神殺し」に属します。講義で紹介した雄略天皇時代の伝承では、雷神は天皇を畏怖させる力を持っていますが、『書紀』推古天皇26年条の伝承では、雷神は「天皇に逆らうことができようか」との宣言を聞いて力を失い、勅を奉じた使者の河辺臣によって焼き殺されてしまいます。これらは恐らく、天武・持統朝に大王が自然神を超越する宗教的権威を手に入れて〈天皇〉となるとき、自然神を貶め天皇の権威を拡大するために王権によって喧伝されたのだと考えられます。同じ時期に創出されたと思われる〈神殺し〉の説話が、『書紀』や『風土記』に幾つか残っています。